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「何処さ行くど」

「追い掛けるのです」

話すのが、歩くのが、息をするのが、信じられないほどの奇跡だと知りながら動くのを止めなかった。
一人でも多くの首を、一人でも多くの御霊を奪う。
それが島津にとっての最善であり、敵陣突破を選択した御叔父様を薩摩に無事帰す事に繋がるのだから。
勝利を手にした敵陣の士気など、敗戦して尚生きるため戦う我等島津の敵ではない。
勝ち戦にて命を長らえた兵士達は生き長らえた安堵をも手にする。
その安堵感ゆえ、我等の猛攻には肝を冷やすであろう。
死にたくないと刀を投げ捨てるであろう。
なんと生温い。
先頭民族と比喩までされる我等にそんな生温さは通用しない。
だがしかし。

「追い掛けるのです、帰るのです。御叔父様に生きろと言われたのですから、精魂尽きてまた敵に囲まれようと首を狩り取り薩摩に持ち帰るのです」

「……おう」

体が上げる幾重もの悲鳴にすら耳を傾けず。
自然と下がる瞼すら切り取ってしまおうかと思案するほど。
自身から流れる血潮は戦を勝ち抜いた証しだと鼓舞しながら。
御叔父様が薩摩に戻り、我ら二人も無事帰還したならそれはなんとも、勝ち戦以外に当て嵌まる言葉はない。
我等二人は生き長らえなくてはいけない、それが御叔父様が遠ざかりながらも喉が裂けるほどの声で言い残した命なのだから。

「我らが置いていく首は少なくとも此処には御座いませんよ、お豊」

「まっこと…勇ましかあ嫁ごじゃ」

「戦忍に女子の常識を当てはめるとはご法度にございますよ」

血に濡れた自分を嫁にした風変わりにしては行き過ぎているお豊も、常識すら覆し島津の名を口にする権利を与えてくださった御義叔父様も、どちらも大切なのだから。
しっかりと握られた二人の掌は生温い感触すら気にしなかった。
散らばる屍すら視界に掠めず、前だけ見据えて神経は研ぎ澄ます。
まるで静かな野獣、獲物を捕らえて逃がさぬ猛獣のように。

「帰るのです、命あるならば」

生きているならば、帰らねばならぬのだ。


2013.8.7

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