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暗闇には一筋の光も見いだせない。このまま朽ち果てるのだろうか、それとも生かされるのだろうか。両腕が無い今、わたしにできることは思考を巡らせ重くなる瞼に抗うだけ。負けてたまるか。そのなけなしの意地が意識の朦朧とするわたしを覚醒させる唯一の希望だった。
ああ、一体どうなるんだ。痛みの無い、血の滴らない傷口。気持ち悪い、気持ち悪い。斬り落とされ繋がっていないはずの腕が、誰かに弄ばれている感触が確かにする。それも気持ち悪さを倍増させて、指先に何か生ぬるいものが這った感触に肌が思わず粟立った。

「このヤロウ…」

あの憎らしい笑みを思い出し唇を噛んだ。なんでこんなことに。確かにルーキーの船に乗り込んだのはわたし達の方で、悪魔の実の能力なんてものを持っていたトラファルガーやその他のクルーに惨敗したのは実力差だから仕方なかったけど。だけど、どうして生かされてる?どうしてこんな、生き恥を。指を這う感触が気持ち悪い。なんで、腕は斬り落とされたのに。あの能力はなんなんだ。悪魔の実の能力なんて、完全に嘗め切っていた。見たこともなかったから。なのに、偉大なる航路に入る寸前にこの様だなんて。なんだったんだ、なんなんだあの、力は。悪魔の実なんて関係ない。あいつが、あいつ自体が悪魔だ。不健康そうな顔色も、人を小馬鹿にした表情も、人を人と見ないあの眼差しも全部全部。悪魔に向かっていった凡人はこうなる運命なんだね、きっと。ああもう、いやだ。蹴られた背骨が痛い。

「ひ…っ」

生暖かい感触が二の腕の裏を這った。気持ち悪い、何してんだこいつはっ。わたしにはついていない両腕は、多分切り落としたあいつが持っているのだろう。狂ってる。あんなグロいものを持ち歩くなんて、自分の腕だけど理解できない。

「いい加減に…しやがれ…っ!」

繋がっていないのに感覚があるというのはある意味、便利だ。二の腕から感触が離れた後今度は掌に移動したようなので、思い切り手を下に避けてから拳を作って上に振り上げたら予想通り、何かを殴った。はっ、ざまあみろ。這ってたものがなんなのかはわかってんだよこの変態め。

「……あ゙っ」

思い切り投げられたのか打ち付けられたかは知らないが、急に襲われた掌の激痛に顔を歪めた。ありえない、こんなこと。抵抗できない自分が悔しい。何でわたしは生かされてるの?こんな生き恥を晒されるくらいなら死んだほうがましだったのに。

ガタガタッ、という音が外から響いた。今だに痛みが引かないため床から顔を上げられない。誰か、向かってきてるみたいだ。まあ十中八九あいつだろうけど。

「…っ、おいテメエふざけんなよ」

こっちのセリフだバカ野郎。

「はは、はっ…アゴにクリーンヒットでもしたか…?」

「ああ…こんな状態で、見えてもいないくせに綺麗に決まるもんだな」

「はっ。それは、良かった…っ」

髪を鷲掴まれて顔が床から離れた。頭の皮膚が痛い。ブチブチという音で何本か抜けたことがわかった。ヤベ、ハゲないよねこれ。死ぬよりハゲる方がいやだ。

「自分の置かれてる状況がわかんねェのか?」

「腕を…舐める方が悪いんだろ…っ」

「おれの戦利品だ、好きにして何が悪い」

「悪魔め…っ」

人を何だと思ってるんだ。人体収集でもしてるのか?悪魔という言葉にニヤリと笑みを深めたこいつは、とてもじゃないが人間には見えなかった。

「お前を生かしておいた理由は一つだ」

ここに置いている理由も、と言いながら奴は周りを眺めた。あまり光の入らないここは見通しが非常に悪いが、暗闇に慣れたわたしの目には大小様々な袋や宝箱が見える。凡そ宝物庫、というとこか。倉庫や牢ではなくここに置く理由なんて、あるのか?一通り見おわってから、トラファルガーはわたしを見つめ直す。その視線と不敵な笑みに、思わず背筋がぞっとした。

「逃げようなんて考えないことだな。お前はおれの物だ」

ふざけるなと、そう叫べないわたしは目の前の男に恐怖している。逃げない、逃げれない。今までにない恐怖をこの男から感じた。

「一生、な……覚悟しておけ」

わたしの頭を掴んでいないほうの奴の腕が、目の前に晒された。その手が掴んでいるのは切り落とされたわたしの、両腕。

掌をナイフで刺され一束にされている自身の両腕を見る。引かない痛みが、お前は逃げられないと言っているようで目眩がした。



苦しみ藻掻いて
ればいい


2009.1.12

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