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海に浮かぶソレを見て、途端に騒ぎ始めた周りのクルーが煩わしくてうっとおしい。なにを嘆いてやがる、今だって敵船に勝って盛り上がってた最中だったろうが。緩やかな海に波紋が浮かび、ソレは身動きせず海に漂っていた。一人二人と海に飛び込み、静かな波紋に水飛沫をあげる。うるせえ、もう少し静かに落ちろ。眉間にしわが寄った感覚がこれまた不快だ。

漂っていたソレに辿り着いたクルーが、ソレを腕に抱いて船に引き返してきた。泣きそうな顔をしている。それがまた滑稽で笑いそうになったが、周りの奴らがオレとは正反対な表情をしているからやめておいた。めんどくせえ、なんでオレが気遣ってんだ?必死でこっちに向かってくるそいつらを見ながら、ツナギで泳ぐってのはきつそうだよなと他人事が頭に浮かんだ。

一通りのクルーたちの行動を見たあと、船の縁に座っていた体を起こす。ベポがうるさく騒ぎながらオレに寄ってきて力強く腕をひっぱっていった。おいおい、お前がそんなになるなんてめずらしいな。焦っているそいつを見ながら、騒然としている甲板に連れられて足を止める。今だに海にいる奴らは、腕に抱いたソレに話し掛けながら今までに無いくらい必死になっていた。なんだっていうんだ、どいつもこいつも。辛気臭せえ騒ぎは好きじゃない。

緩やかな波紋に広がる青い海に、泳いでる奴から出ている線状の薄い赤が目についた。どす黒くも見える色彩を見て、ますます眉間にしわが寄る。あれは、血だろうか。船にやっと乗り込んだそいつらと腕の中のソレを見る。騒いでる奴ら、というか船の上にいる奴らが一斉にソレに近づき騒ぎ始めた。泣いてる奴らもいる。ベポなんて吠えてるから耳が痛い。

黙れ。
そう言ったオレの声が静かに響いた。急激に静まり返った周りは信じられないとでも言いたげな瞳でオレを見る。なんなんだ、うっとおしい。

無言の中で体を動かし、ソレの方向に足を向けたオレの前の人垣が左右にわれた。靴音と微かな木の軋む音を耳にしながら、なぜだか夢心地のような定まらない意識でいる自分に腹が立つ。なんだ、これは。すすり泣く声がまた辺りに響きだした。

「おい」

ソレを見下ろし声をかける。もとから白かった肌は青白くなり、艶やかな唇は赤みを失い血色の悪い紫色に変色していた。いつもオレの隣で笑っていた姿は跡形もない。おいおい、具合でも悪いのか?早く目覚めていつもみたいな笑顔を見せろよ。周りが泣き声ばっかでうるさくてかないやしねえ。お前が起きればすぐ収まる事態なんだ、いつものアホ面で周りを安心させてやれ。男泣きってのは結構、思ってたよりも不様なんだ。

しゃがみこんでソレの頬に手をやる。腹部から飛び出ている柄を見なかったことにしながら、血に濡れたソレの掌を握れば何故かひどく胸が痛んだ。ああ、まったくうっとおしい。

「起きろって、」

オレの頬を濡らすこれはいったい、なんだ。






2008.9.26

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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