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私はしがないメイドの一人ですが忠誠心は人一倍あり自己愛心や独占欲も多大に持つちょっと変わったメイドでございます。メイドなどと人に仕える仕事をしておりますが、後輩メイドに先輩風を吹かせているため好きな仕事しか執り行ってはおりません。それで良いのかって?私が楽ならそれで良いのですよ。好きでもない仕事をこれまで耐えぬき此処まで好き勝って出来る様にしたのは他ならぬ私念のためでございます。私はお慕い申し上げる御方が居るのです。とても高貴で威厳があり、そして誰も逆らうことの出来ないカリスマ性を持つあの方。私達の、いいえ、私のご主人様。
私が働く職場は威張り腐った金持ちの陳腐なメイドではございません。裏社会のトップに君臨し、その道ではその名を知らぬ者は居るはずが無いと謳われるマフィア・ボンゴレファミリー、ドン・ボンゴレ九代目直属の特殊暗殺部隊ヴァリアー、しかも総本部のメイドでございます。長年働いている私は幹部の方々とも顔を会わせたりなど接触は多々ありますが、それでも少ない方でしょう。そう、私は始めに申し上げたように好きな仕事以外は基本致しません。そして私の好む仕事は我等がボス、ドン・ボンゴレの御子息でも在らせられる麗しの君、XANXUS様の身の回りのお世話をすることでございます。ああ、なんと素敵な職業なのでしょう。私が周りをうろついたとしても気にせずお仕事を全うするそのお姿は誠実さが醸し出されていて思わず見惚れてしまいます。私が動かずXANXUS様を凝視していたと知られるその時は、時折XANXUS様本人から五キロはあるだろう置時計を顔面に投げ飛ばされたり手にしていたワイン瓶を頭に振り下ろされたりと過激なお咎めを受けてしまいますが、それはXANXUS様の照れ隠しであると私は理解しておりますのでまったく苦には思いません。むしろスクアーロ様のように、幹部の方と同等の扱いをして頂けているととても喜ばしく感じています。
XANXUS様は、以外とシャイな御方です。私の日々のアプローチに気付き、気になっているはずですのにまったくお声を掛けては頂けません。え、何故気になっていると分かるのかって?そんなもの、私が相手だからに決まっているではありませんか。私がアプローチを掛けたなら、いくらヴァリアーのボスで在らせられるXANXUS様でも目を眩ませずにはいられないでしょう。初めに申し上げたように、私は自己愛心が高めで、言うならば自分自身が好きすぎてどうしましょうと日々思っております。私以上に素敵で完璧な女はこの世に居るはずも在りません。なので、私はXANXUS様のお傍に日々アプローチを掛けつつ身を削る思いで付き従いお世話をさせて頂いているのです。
ですが、ヴァリアーに勤めて早六年。一度もXANXUS様からお誘いを頂けたことがありません。六年という歳月は幹部方の欝憤やXANXUS様本人のお咎めにより辞職なさったり殉職なさる方が多いこの場では中々に長い方でございます。XANXUS様がシャイであり麗しの私に易々と手を出せない気持ちはよく分かりますが、六年は流石に我慢しすぎではないかと感じます。XANXUS様は、大丈夫なのでしょうか。こんなに素敵で色香溢れる私が日々お側に居るのですから、男性としての欲求が蓄まっていることは確かです。けれど、XANXUS様は一度も私に触れるどころか、お声を頂いた時も照れ隠しの「消えろ」という一言以外は言えない模様なのです。これは、困りました。私は何時でもお誘い頂けるよう準備は万端でございますので、あとはXANXUS様のお心の準備次第でございます。大事にされているのは女名利につきますが、これは些か過保護の意気に達しているよう感じます。このままではいけません。美しい私と美しいXANXUS様は結ばれる運命なのです、躊躇するお気持ちは分かりますがこれ以上の待ったは必要が無いでしょう。ならば、ということで。
私から動いて差し上げますね、XANXUS様。





「XANXUS様、お紅茶をお持ちいたしました」

執務に没頭しておられるXANXUS様の凛々しいお姿は見ているだけで私の子宮を疼かせてしまいます。なんて罪な御方でしょう。今日こそは、という意気込みである私はいつもの私ではございません。今回のお紅茶に、なんと差し出がましいことに多量の催淫剤、つまり媚薬、を入れさせて頂きました。無味無臭の最先端の媚薬らしく、嗅覚の優れた獣でさえ分からぬと保障済みらしいので気付かれるということはないでしょう。しかも私、薄めて使うはずのそれを原液で入れてしまったためどれだけの効果が表れてしまうのかまったく持って分かりません。どうなるのでしょうか。今から鼓動が忙しく鳴ってきてしまいました。ああ、XANXUS様。早く、早く私を本能のまま求めて下さいまし!

「XANXUS様、冷めてしまいますのでお早めにどうぞ」

「うるせえ、気が散る消えろ」

消えろ、など!何故今日に限ってそのような言葉を。普段なら私が何時間無言で控えていても何も言わずお側に置いて下さるというのに!まあ、けれど、飲んでしまえば給仕の電話で私をお部屋にお呼びするでしょうから大丈夫ですね。XANXUS様関係のお仕事は全て私に回すよう手は回っておりますし。

「御用がお有りになりましたら駆け付けますのでお呼びください。では」

執務室から出る途中にXANXUS様が紅茶に口を付けたのを見てしまいました!ああ、どう致しましょう。此処で控えているべきでしょうか。それよりもどのくらいの時間で効くものなのでしょう。とりあえず少し離れたところで様子を見たいと思います。

「……」

五分経過。変化なし。XANXUS様のお声も物音も何も致しません。速効性ではない模様。もう少し待つことに致します。

「……?」

十分経過。変化あり。なんとXANXUS様がドアを開け普通にどこかへ向かわれてしまいました。尾行などという高度な技術は残念ながら私は持っていません。ちらりとお顔を窺う事は出来ましたが、なんと何の異常も見られなかったという始末です。何故でしょうか。もしやXANXUS様は媚薬をも凌駕してしまうのでしょうか。流石、XANXUS様。こんなことを仕掛けてしまった私は本当はおバカだったようですね。

「XANXUS様…次こそは…っ!」

媚薬云々はもうどうでも良いとして、いったい私達は何時になれば結ばれる日がくるのでしょうか。
春も疾うに過ぎた現、二十八歳な私。そして三十歳なXANXUS様。

只今ぎりぎりライン、突入中です。



容疑者Bの空想


2009.3.1

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