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「ねえ、なにしてんの?」

鮮やかな金髪を揺らし、その姿を煌めくように彩るティアラが私の瞳に映った。誰だろう。意識の定まらない思考はぼんやりとしか浮かばない疑問に支配される。何歳ぐらいだろうか。私とは然程歳の離れてなさそうな彼は、反応の示さない私に向かって煌めくなにかをちらつかせている。あれは、なんなんだろうか。暗いこの倉庫の中では、外の溢れんばかりの光の逆光のせいでチラチラと光る動きしか理解できない。彼は、なんなのだろう。眩しい光に恍惚な何かを連想させた。

「しし、ツマンネー奴」

彼が歩いて、私との距離をつめる。彼が動いたことでさっきよりも多く入る光によって、暗闇に支配されていたこの小さな倉庫にも万遍無く光が灯された。急な眩しさに不快感を感じるけれど反応はしない、できない。筋肉という筋肉が削がれている私には、瞼が開いているこの現状さえありえないことだった。ましてや、こんなところに誰かが来るなんて。

「なあなあ、お前誰?なんでこんなとこ居んの?名前は?なんでしゃべんねーの?閉じ込められてたわけ?」

飛び交う疑問符に頭の中で苦笑する。好奇心が強いのだろう。質問の応えを言いたくてだらりと開きっぱなしの口を動かそうとするけれど、私の意志と反して言うことの聞かない肉体はぴくりとも反応してくれなかった。ああ、やんなるなあ。彼の視線が痛い。

「おい、しゃべろよ。王子の命令聞けねーの?」

私だって、できるものなら。王子の命令、ということは彼は王子なのだろうか。今にも途切れそうな思考ではこんな考えしか浮かばない。まるで、頭に砂が入ってるみたいだ。カラカラに乾いていて、私の微睡みを強くする。彼の笑んでいた顔が急に無表情になって、ちらついていた綺麗な銀に光る道具もいつのまにかしまわれていた。誰なんだろう、彼は。まだ幼く見える容姿は完璧な大人には見えなかった。

「お前……しゃべれねーの?」

しゃべれないどころか、動けないんだよ。何ヵ月も放置されていたこの体は動くという機能を、血流や心臓といった最小限のもの以外は取り払ってしまったようだから。

「ちょーガリガリ。よく生きてんね、お前」

本当、よく生きてるよね、私。言うことの聞かない体は限界を訴えているのに、頭の中は朦朧としてるわりには言葉を選び出したりして。久しぶりに誰かと接したからだろうか。さっきよりも働きだした脳みそに嫌気がさした。早く、命が尽きれば良いのに。既に感覚というものは忘れているから、この思考が終われば私は見事にジ・エンド。最高の結末だね。辺鄙な倉庫で餓死するなんて、今の世の中なかなか体験できないだろうから。

「オレさ、ここの連中皆殺しにしろって言われてんだけど、お前どう?ここの連中?でもんなとこ閉じ込められてて仲間もクソもなさそうだよな」

へえ、皆殺しかあ。てことはどっかのマフィアに奇襲か報復でもされたのか。あれ、でも何で王子とやらがその中に居るんだろう。わかんない。まあ私は下っぱの下っぱの下っぱだったし、こんな状態にされたんだから仲間なのかと問われたら即効でノーと答えたい。しゃべれないから無理だけど。まったく、理不尽だよね。上司にちょっと楯突いただけなのに必要以上に怒ってここまでにして、あのハゲ。職権濫用でこんな空き倉庫に閉じ込めて何日かの監禁っていう罰だったはずなのに、あいつ忘れやがって何ヵ月もこの状態で放置で。何ヵ月かは知り合いが暇なときに食事くれたりもしたけど、一ヵ月以上前から音沙汰なし。はは、笑える。けど、皆殺しだ。本部から離れたここまでこの人が来たということは、ファミリーは全滅なんだろう。ああ、なんということだ。

「…っ…ふっ」
「お、動いた」

あはは、だっておかしいんだもん。ここ最近いつ死んでも可笑しくなかった私よりも先に、昨日までは平穏無事だったあいつらが死ぬなんて。はは、ざまあみやがれ。地獄に堕ちな。
たぶん私も、直ぐに追い付くだろうけど。

「なー、オレ飽きたんだけど。このまま放置してもお前どうせ死ぬよな。戦えねえなら興味ないし」

ああ、そうだね。早くあっちに行ってくれ。彼が何処の誰かは結局わからなかったな。腕にある紋章には見覚えがあるけど、擦れてきた意識にそれを判別する気力は微塵もない。ああ、私もこれで終わりか。

「しし、覚えてたらまた来てやるよ。そん時生きてたら助けてやってもいーぜ?」

ああ、そう。きっと君は真っ先に忘れるよ。そんな予感がする。でも、ありがとう。最後に誰かと逢えて良かった。

「じゃーな」

うん、じゃーね。


バイバイ、王子クン。

2009.1.11

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