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暗い室内に薄明かりが差し込む。カーテン越しに通り過ぎる光をぼうっとする意識のなか目で追えば、隣から伸ばされた力強い腕が首に周り勢い良く引っ張られた。鈍い音をたてながら体がベッドに倒れる。絞まった呼吸気管の圧迫に意図せず変な悲鳴が漏れた。痛い。

「ね…何してんの?」

「…別に」

ベッドで惰眠を貪っていたはずの男に引きずり込まれたせいで、いやに艶のある低い声が吐息と一緒に耳を掠めたので顔を顰めた。私の返答が気に食わなかったのか、首に周された腕の力が強まる。痛い。
ただ、なんとなく、夜中に目が覚めて、物悲しい気分になって、夜が明けないかカーテンの奥にあるだろう空を見つめて。でも早々夜が明けるわけなくて、偶然家の前を通り過ぎた車のライトを動きに合わせて顔と一緒に視線を動かしていた。それだけだ。たったそれだけのことなのに、この男は逐一私が何をしていたのか知りたいらしい。私が寝首でもかくと心配しているのだろうか。いつの時代の人だ。

「言えないことでもしてたわけ?」

「…どうでもいいでしょ。離して、痛い」

「やだ」

ギュウッと、お腹の括れに腕を回される。容赦のない力に私はまた小さく呻いた。痛い。耳筋をゆるく噛まれる。小さく響いた水音に思わず頭が跳ねた。ゾクゾク、する。この男のこういう仕草が私は好きだった。

「感じた?」

「鳥肌立った」

「ひどい」

「微塵も思ってないくせに」

「そんなことないって」

くすくす笑いながらの発言はまったく信憑性がない。彼もわかっているのだろう。少しだけゆるんだ腕の力に気付いて、顔を顰めながら私は若干身悶えた。ギュッ。身動きすら出来なくなる。

「こら。逃げちゃダメ」

「欝陶しい」

「そんなこと言ってると余計離さないよ」

「佐助」

「なに?」

「離して」

「…無理」

殊更低くなった声色に頭が痺れた。項に埋まるように擦り寄る彼の呼吸が心地いい。名前を呼ばれる。擦れたその余裕のない声に、思わず唇が弧を描いた。逃げれば追ってくる貴方の性質を、私はよく知っている。

もっと、もっと強く私を求めて。今のままじゃまだ足りないの。


20110203

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