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「簡単に言うと転生トリップってやつだ」

バカみたいに広くて綺麗で無駄に豪華な部室に入り一息、部室というのは普通は運動部特有の汗臭さがあるはずだが逆に爽やかフローラルの香りがして内心キモいと思っていたところ。
ソファに座らされ面と向いたところで言われた言葉に思考が止まった。
……はあ?なにが?

「あ、その顔はわかってねぇな」

「まあ…急に言われても」

私転生なんてしてないし。
気付いたらこうなってたっていうか……ん?
え、てことは。

「え、あの、もしかして…」

途中で言葉を切り、失礼なことは承知で目の前のマネージャーに向けて指をさし示した。
さっきテニプリって言ってたし!
こっちに住んでたら絶対聞かないだろう略語だし!
内心大暴れである、もしかして同じトリップ経験者なんじゃないかとかあり得ない考えだけど、私がここに居るんだから他に居ても不思議じゃない。
あり得ないことが起きて私は今ここで生きてるんだから、普通ではあり得ないこともここでは充分あり得るわけであって……ややこしいな面倒くせぇ。

「意味わかるってことはやっぱお前もそーなの?てかテニプリって聞いて反応した時点でそうだよな」

「まあ…え、マジですか、ガチですか」

「本気と書いてマジと読む」

え、なにこの人。
ドヤ顔で言われたそれを若干シカトして少しだけ考え込んでみた。
この人が転生トリップしてて私とある意味同類だとすれば、それが何故バレたのか…まったくわからない。
目の前の彼を見ても私には周りと変わらないただの普通の人に見える、雰囲気が年上っぽくて敬語が抜けないことを抜かせば本当に普通のイケメンだ。
なにか見分ける方法でもあるのか、それともただの当てずっぽか。
適当に言って当てただけならすげーな尊敬する、もはや人間じゃない。
あ……私の普通とここの普通を一緒にするのはダメだから意味無いのかもしれない。
転生したってことはこの人もこの世界に馴染んでそうだし、なにより吃驚仰天テニス部のマネージャーだし。
……そういやキングの従兄弟って…言ってたっけ。

「おーい、戻ってこーい」

「…ああ、すみません。……あの、なんでわかったんですか?」

「あん?ああ……てか名前も転生?」

「いえ、二週間くらい前に…トラックに轢かれたはずがいつのまにか若返って氷帝の職員室に居ました」

「マジかよ壮絶だな……え、若返ったの?」

「はい。私成人済んで数年目です、こんなんでも」

「俺二十六歳だったのに気付いたら赤ん坊だった」

「ぶふっ」

え、ちょっ、そっちのが壮絶なんですけど!

「笑うなよ、確かに笑えるけど」

「ふっハハッ…すみません。年上なんですねー、どうりで敬語抜けないと思った」

「タメで良いぜ?」

「オッケー」

「ちょっ、一回くらい渋れし」

切り替え早いのが私だ。
少しだけはりつめていた体の力を抜いて、いつものようなダルい感じに戻りソファの背もたれに沈む。
敬語要らないイコール畏まるな、だと解釈してるので取り繕う気もしない。
だってめんどいんだもん。
今は歳も同じだから良いよね!

「俺が名前をわかった理由だけど……とりあえず転校生には俺片っ端にテニプリって単語出して反応見てんだ」

え、なんで。
転校生全員って……たちの悪い通り魔みたいだな。
なんだかチンプンカンプンだけど、とりあえず口を挟めば話が進まないと判断したので大人しく耳を傾けた。
たぶん聞かなくても全部言うでしょ。

「反応しない奴が大半でさー、氷帝にゃ居ねえのかなーと思ってたら、お前を見つけた。テニス部に興味がないと言いながらも近づいてる転校生…あ、ビンゴ、みたいな」

「なんかアンタ……詳しいな、男なのにテニプリの夢小説でも読んでたの?いやそんな奴も居るだろうけどそんな反応でうちらみたいなのわかるくらい熟読してたわけ?」

「ちょっ、切り替え激しい!」

「なんだよウゼェな」

「口悪すぎだ」

ほっとけ。
なんだか第三者に指摘されれば、確かに狙って近づいたように思われても仕方ない気がしたのでそこの否定は止めておいた。
私気紛れに適当に過ごしてるだけだし他人になに言われても思われても好きにすれば?状態だ。
せっかくテニプリ世界に居るんだから彼らで暇潰しても誰にも文句は言わせないぞ、今のところ笑い死にそうだから進んで絡もうとは思わないが。
いや、慣れたところでつまんないからこれまた絡まないだろうな、なんだかんだでクラスメイトとするオタク談義以上に楽しいものは今のところキングの言動しかいない。
キング…日々進化してるから慣れないかもな…ブフッ!

「俺夢小説?てのは読んでねーよ?」

「え…じゃあなんで?」

「聞いて驚けー、他校にもトリップしてる奴居んだなーこれが。俺の状況が酷似してるって理由で夢小説とか色々そいつに教えてもらった」

本当は驚かせようとしてないだろという表情で淡々と言ったマネージャー…めんどい略そう。男マネの言葉に驚いた。
マジか、え、なにこのトリップ率半端ない。

「夢小説っての教えてくれた奴は立海なんだけどこりゃまた良い奴でなー、正直ミーハーとか聞かされてもあんまピンと来なかったんだけど青学に居る奴が酷いのなんのって。アイツみたいなのが氷帝に来られちゃ困るわけなんだ俺も。なんでこんな多いのか俺も知らねえけど」

青学……ああ、あれかもしかしてストテニで会ったあの子か…。
確かにあれは酷かった。

「へえ…で?」

「で、だ………お前はどうなの?」

声のトーンを低くした彼が私を真っ直ぐに見つめて問い掛ける。
品定めしているような視線、キングと同じ色の瞳と力強さは確かに血の繋がりを感じた。
力強いそれは私を真っ直ぐに見据えている。
んー、まあ……どうなの?と聞かれてもねえ。
テニス部に近づいて何かする気か?と聞きたいのかもしれないけど、正直遠巻きで暇潰しくらいしか考えてないからなあ。

「知るか、んなもん」

「……は?」

「てかさ、私ごときがテニス部に近づいてなんかなると思ってんの?デメリットあるわけ?」

「…青学行けばわかる。あの女無理矢理マネなったみたいでよ、部活中でもお構い無しで引っ掻きまわしてんだ。練習に支障あんだろ、そんなのデメリットの塊でしかねぇよ。氷帝もんな状態にさせるわけにゃいかねーんだ」

「んじゃ大丈夫じゃね?」

「……は?」

普通に友達なるなら別にそこらの一般女子と変わんないし、テニス部とどうこうなろうと動いたことは一度もない。
確かにキャラとして好きだった彼らの個人情報とかはこの世界に居る人よりも知ってるだろうけど、それを使って近づこうなんて思い付きもしなかった。
私は私が楽しむときだけその情報を使う、キングがコートで演劇じみた発言するタイミングとか、本当に素面でドヤ顔とか口癖言うかとか。
……思い返してみるとくっだんねえことに原作知識使ってるな自分!
まあ楽しいから良いや。

「とりあえずテニス部目当てで部内を引っ掻き回すかどうかを疑われてるってことはわかった」

「ああ」

「つまり私がそう見えるってこと?」

「んー、微妙だな」

ずっこけた。
微妙なのかよ!

「てかよ、俺としては部活引っ掻き回さなきゃ別に誰に近づこうが恋愛しようが構わないわけだ。スタンドでお前に言った嫌味っぽいのもさ、とりあえずお前がビンゴだった場合ああ言えば俺に興味持って今みたいに話し合い出来んじゃないかって思って言っただけだし」

「…ああ、あれか」

「ごめんな、ファンクラブ規制の話はこっちも助かったからそれは感謝してる」

「いや、私本当に愚痴っただけでなんもしてないんだけど…」

「まあその話は今は置いとけ」

なんだか色々と感謝という勘違いをいただくからさすがに申し訳なくなってきた……本当に頑張ったのはファンクラブの皆だからね、私じゃないからね。

「で、実際どうなのよ。引っ掻き回すつもりか?景吾しか興味ないっつってたけどその前はただダルそうにしてただけだったし。急に態度変わるわ他の奴には雑だわ……大ファンとか言ってたけどなんかそれも嘘っぽいからお前よくわかんねえ」

よくわかんねえの称号いただきましたー。
まあ……わかんないだろうね。
あの態度完全に思い付きだったし。
なんかごめんなさい。

「んー、なんつーか……とりあえず引っ掻き回すつもりは微塵もないことは断言する」

「……マジか?嘘だったら金持ちの権限使ってお前追い込むからな」

「なにそれ怖い」

笑いながら言っていたので冗談だと思いたい。

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