dream | ナノ
「あんた名前ちゃんっていうの?」
普通にイケメンな男子テニス部のマネージャーに声を掛けられた。
好奇心旺盛です、と言わんばかりの笑顔。
ああ、普通に好青年だ。
久々に言われたちゃん付けの名前にうすら寒いのを感じたからちょっと顔が引きつる。
ちゃん付けやめてむず痒い。
「名字です」
「名前ちゃんでしょ?」
「名字で良いです」
「名前ちゃんって呼ぶわ」
「いや…んじゃ名前で良いんで呼び捨てでお願いしますキショイ」
「うお、キショイって言われちゃったよー。やっぱこっちが素だなお前」
……あ。
……え?なにこの人。
ニヤニヤしたまま私の隣に座り込んだマネージャーはその顔のままズイッと近寄ってきた。
え、なにこの人。
「私跡部様以外興味ないんで」
「お、んじゃ俺にも興味あるっしょ」
「は?」
「あ、知らね?俺も跡部だよ」
…えええええっ?!
え、兄弟?!
キングって一人っ子じゃないっけ…あれ?
まじまじと目の前にあるマネージャーの顔を眺める。
日本人ではカラコンをいれなきゃこれ無いだろ、という瞳の色。
泣きボクロはないけど…まあキングと似てると言われりゃそうだねーくらいは言えそうな感じだ。
「んな見んなって。従兄弟な、兄弟じゃねーよ?」
「はあ…」
へえ…キングの従兄弟が氷帝の男子マネージャーやってたなんて裏設定あったんだ…へえ。
それにしてもなんだろう、雰囲気が年上っぽいからなんか敬語が抜けないぞ、私プライベートなら三言くらい話したら大抵タメ口たたくのに。
「なあ、三年に転校してきたのって名前だよな」
「え、はい」
「ふーん……なんでテニス部興味ないのに来てんの?松本の付き合いっつっても断りゃ良いだけじゃん」
探るような目で私を見る彼は何が言いたいのか正直わからない。
いや…振り払うのもダルいし基本的に流されてるだけだから…。
それにテニプリの世界なら本人たちと関わらなくても見てるだけで楽しそうだし。
「ジローのギャラリーに対するお礼ってのも…たぶん今回のファンクラブの規制についてだろ?なに、発案者?」
「まあ…そうっすね。私雪と麗奈に愚痴っただけですが」
「そうやって興味ありませんーって雰囲気だしながらテニス部に印象良くして近付こうって魂胆?実際ジローにも自分から話して近付いたんだろ?」
え…ああ。
なんとなく敵視されてると気付いて気が抜けた。
なるほど、そういう視点もあるんだ、ほうほう。
いやまあ微塵もそんな気ありませんけどね。
ジローはあれ、偶然と勘違いと物欲の末で出来た繋がりだし。
ブラックサンダーなければたぶんあれ以上関わんなかったよ。
まあお望みならもう来ないし関わんないけど、うん。
暇潰しが一個減るだけだ。
「ジローのあれは偶然なんでなんとも言えませんが……迷惑ならもう関わりませんけど?」
「いやー……ってアレ、周り誰も居ねえ」
「え」
ふと我に返って周りを見れば、テニスコートに居た筈の数人の部員もついさっきまで居た筈のレギュラー達も誰も居なくなっていた。
マネージャーとは逆隣に居たはずの雪の席には、彼女に投げつけたブラックサンダーの詰まってる袋がちょこんとあるだけ。
え…え?なにあいつ先行った?
「お、本鈴鳴り終わってんじゃねーか」
「気付かなかった…」
「だな。意外と抜けてんねー」
「貴方に言われたくありません」
「ひでーの」
野外に設置されてある時計を見て溜め息を吐く。
ケラケラ笑ってる目の前の人がよくわからない。
さっきまですげー険悪な雰囲気出してなかったっけ。
「ちょっと質問して良い?」
「…教室行かなくて良いんですか?」
「もうこのままサボっちゃおーぜ。あ、部室行くか。俺鍵当番だから」
さっさと立ち上がり歩き出す彼がまっっったくわからない。
なんであんたとサボらにゃいけないんだ、だったら一人でどこか放浪した方がマシなんだけど。
後ろ姿をジッと見てどうしようか、エスケープしようかと考えてたらコートの中央を歩いてたマネージャーはクルッと振り向いて私を見た。
ニヤリと笑んだかと思えば、手を口の側に添えて私に向けて大声を出す。
「テニプリって知ってるかーっ?」
「……え」
「お、ビンゴ。…詳しいことはなかで話そうぜ、教師に見つかっぞ!」
今度は走ってレギュラー専用の部室に向かって行くマネージャーを見て、私も衝動のまま何も考えずに彼の後を追って走った。
いや、だってさ…え?
同類?