dream | ナノ

「名前おはよー!」

「おはよー……ってなに、何なにコラ引っ張るな」

「今日も張り切って行きましょー!」

「却下」

「なんでーっ?」

「そっち教室じゃないじゃん、朝からあんなサイレン並みに煩いところ行きたくない、ダルい、却下」

「だが断る!」

「なんだお前」

昨日と同じように、ではない、昨日とは違い確実に私を待ち伏せていた雪が昨日と同じく私を引きずった。
向かう先は言わずもがな、テニスコート。
なんなんだ、あれか。

「朝練一緒に見に行く子今日も休みなの?」

「ご名答!」

「爆発しろ」

「ちょっ、ひどい!熱がなかなか下がんないんだってー。今日も付き合ってよ!朝だけだから!」

「えー……うん、まあ良いや」

「ありがとー、やっぱ何だかんだで名前優しー!」

腕にギュウッと引っ付いてニコニコしだした雪の頭をポンポンと撫でた、というか叩いた。
いやなんかさ……昨日可愛いと思ったらなんか今日も可愛く見えるんだもん、仕方ないよね。
前々から年下の友達も元の世界で多かったし、十歳下の従姉妹がいるせいか一度大丈夫だと思えば私は相手に甘くなる。
可愛い子好きだからな…雪も愛でる対象になったのがなんだか悔しい。
それに昨日は爆笑するくらい楽しいの見れたし、テニプリ世界のテニスなら幼稚な試合どころか異次元のあり得ない試合が観れるだろう。
前々から思ってたけどテニプリって格闘ファンタジーだよね絶対。

「そういや雪、なんで今更テニスのルールブック借りてたの?」

「んー?」

「昨日返却してたじゃん」

「ああ、あれねー。ほら、今年になって一年生入ったからファンの子もルールわからない一年生多いんだー。オススメのルールブック教えてください!って言われたから借りてその子達に渡したの」

「ああなるほど…」

腕にすがり付いたままニコニコ楽しそうに説明する雪はファンが増えて嬉しいみたいだった。
選手が好きなのもあるけど、この子はテニスの試合も好きなんだろうな…一生懸命な子は嫌いじゃない。
自分がやる気無い分、一生懸命頑張る人が羨ましいというか、青春してるなーと感心する。
中身が二十歳越えの自分にはないその頑張りようが微笑ましい。
まあ年齢云々じゃなくて私個人が元からすべてがダルいと感じる人種なだけだけど。
そういえばリアル中学生だった時も喧嘩の時以外は授業も普通にサボる怠け者だったし……あ、私青春した記憶ないやあはは。

「うわー、相変わらずうるさー」

「放課後と比べれば静かな方だよ?」

「放課後って毎日ライブやってる並に煩いよね、テニス部の人たちこんな環境でよくできるなあ、私なら無理だ」

「…そっかー」

「……ん?どした?」

テニスコートに到着後、思ったことをつらつらと言えば何故か雪は顎に手を添えて考え出した。
ファン達が煩いのは百も承知だろうに、どうした。

「…ねえ名前、この環境ってテニス部の皆からすれば迷惑なのかな?」

「…さあ?私テニス部じゃないし。本人たちに聞けば?ファンクラブの会長とか居ないの?」

「居るよー。そうか、そういえば応援があった方が練習に身が入るかも、って思ってたけど……こんなにキャーキャー言ってたら応援っていうより…」

「もはや騒音」

話をするために若干テニスコートの遠くにいた私たちはギャラリーを見渡した。
そう、こんなに遠くにいないと話し声も消えそうな声援。
部員たちの指示もすごく声を張らなきゃどこにも伝わらなそうだ、ただでさえ広いから伝わりにくそうなのに。
これは酷い。

「昨日の朝私いつもより遅れて観戦に行ったじゃーん?私ちょっとびっくりしたんだ、煩くて。いつもはね、朝なら三人くらいしかファンの子居ない時に行くから皆集まってくる頃には私も熱入って一緒に騒いでるし、放課後も同じ感じでさー。混ざらないで遠くから見てたらこんなに酷いんだ、と思った」

「……気付くの遅くね?」

「最初から最後まで混ざってるとわかんないもんなんだよー!……多分!」

「ふーん……で、どうにかすんの?」

「会長に言ってみる!」

「へー」

会長と仲良いのかこの子。
てかファンクラブって本当にあるんだなー、雪も入ってるんだろうな会長と仲良いなら。
てかこんな毎日テニス部来てて入ってなかったら意味わかんないよねごめん基本だった。

「あ。雪に名前おはよ!なんでそんなとこ居るのっ?こっちおいでーっ!」

遠巻きに見ていたら、ファンクラブの波の中で手を降りながら大声を出す違うクラスの友達に声を掛けられた。
雪の親友で幼馴染みの大徳寺麗奈、苗字からして金持ち臭がするが歴としたお嬢様である。
例に漏れずファンクラブの一員で、あの女子の荒波をものともせず観戦用スタンドの一番前をキープしてるその姿は豪傑だ。
折角のお誘いだがあの荒波に特攻を仕掛ける根気はないというか、この位置からして耳が既に限界なため行きたくない。
てかなんでこんなに広いのにみんな一塊で鮨詰めなの、もう少しバラけようよ。

「麗奈おはよー!私遠慮するわー!」

「おはよー麗奈ー!今から行くー!」

「おい」

さっきまでの反省はどうしたお前。

「名前行くよ!」

「だが断る」

「だがそれも断る!」

「なんだお前」

「まあ良いから良いからー」

麗奈居るなら私居なくても良いじゃん…やっぱこの年代の子のツレションみたいな団結行動は謎だ。
雪に腕を捕まれ振り払う気力もない私は荒波に突っ込む雪に連れられスタンドの前に来た。
あの、無理矢理来ちゃって周りのファンの子ごめんなさい、快く場所譲ってくれたから申し訳ない気持ちで一杯ですごめんなさい。
なんだいい子達だなあ。

「跡部様あああっ」

「滝君こっち向いてーっ」

「向日君可愛いーっ!」

「鳳くーん!」

「ああん、今日も芥川君いないよーっ」

「跡部様素敵いいいっ」

だけどなんなんだこの熱気は、周りが煩すぎてさっきまでの申し訳ない気持ちも霧散して苛々した。
ファンたちの中でもかなり良いだろうと思われる場所に居ながら、まったくテニス部を見ないで隣の雪を睨み付けた私は悪くない。
腕離せこのおバカ!

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