dream | ナノ
「止まれ」
「…今日はなに…」
放課後、何時ものように他校の友達と街で待ち合わせをしたため学校から出ようと正門目指し歩いていたら、これまた何時ものように仏頂面した幼馴染みが行く手を阻んだのでなんだかわからんが、心底げっそりした。
毎回毎回なんやのこいつ…部活そない暇なんか…。
「今日こそは行かせへんで」
「あんな、毎回そう言うて阻止できんやんあんた、もう諦めて」
「んなもん諦めるわけないやろボケ」
「しばくで」
「犯すぞ」
「飽きたわーほんまこの言い合い飽きたわー、他にやることないんか」
「無い」
「そう、なら仕方ない…わけあるかボケぇ!部活せんかい!」
「三点」
「なんでやねん!要らんお世話や!ちなみに何点中三点ですか!」
「んなもん百点満点中に決まっとるやろ」
「ひっく!」
何時もの軽口を叩き、それでもじりじりと腰を低くしながらにじり寄ってくる光が不気味すぎてあかん、トラウマなりそう。
こちらも負けじと少しずつ後退し、何かと脱出法はないか忙しなく頭の中を回転させて知恵を絞る、が、いかんせん自分の頭は空だ。
絞る知恵さえなかったと空しい気持ちに若干落ち込めば、落ち込んだ隙にかなり距離を縮めていたらしい光に腕を掴まれたのでジトーッとした目で睨み付けてみた。
しかしあちらも負けじとこちらを睨み付けている。
え、瞳孔開いてね?
それほどまでに何か怒らせることをしただろうかと考えたが、如何せんこちらが何も悪くなくても度々怒鳴り付けてくるのがこの幼馴染みの特徴である。
普段遠目から見かける光は完全にすかしたただのイケメンなのに、こううちが絡むと性格が変わるのはいい加減やめて貰いたい。
「なんやっちゅーの、うち今から待ち合わせや。前みたいにすっぽんかませば次はほんま大目玉やん、財布空なる」
「なんやって、貢がせられとんのか」
「は?ちゃうちゃう、罰ゲームっちゅーか罰則っちゅうか…」
「なんやそいつ、なんで名前にんなこと出来るん、あ?誰の許可とってんねん。ていうかお前も誰の許可もろてそいつと付き合うてんねん、有り得へんわ」
「はあ?」
急に友達、というかうちをボロクソ責めてきた光に表情が歪んだ。
いくらなんでも、なんやのそれ。
なんでうちの交友関係に光の許可貰わなあかんの。
「光、大概にせえよ。流石に笑えへん」
「…んなもんこっちのセリフや」
「……あかん、話にならんわ。ほな」
「行かせん言うとるやろ」
掴まれた腕を振り払おうと力を込めても、ぎっちり捕まれたスポーツマンの、しかも男でありテニス部である光の握力は半端なく強くて悲しいかな微塵も動かない。
ああもう、なんやこいつ腹立つ。
またもや文句を言おうと光の顔を睨み付けるため見上げれば、視界に入った光の表情が予想外なものだったため一瞬思考が停止した。
…え、なんやの、こいつ。
なんで泣きそうなの。
「…光?」
「……言うたやろ」
「…?なにを?」
「中学生の分際で付き合う付き合わへんなんてくだらんって、自分確かに言ったやろ」
「うん…うん?……うん、言ってるわ」
「ならなんでや」
「………何が?」
まったく意味のわからない光の言葉に、間抜け面を向けてる自覚がありながらも眉を潜めながら問い返した。
いや、あの、うん。
まったく話が見えへん。
「出来たんやろ」
「何が?」
「彼氏」
「……うん?そうなん?」
「ほんま頭きよるわ自分」
ギリッと掴まれた腕に込められた力強なったけど、自分自身初耳な事を聞かされて最早それどころじゃない。
は?彼氏?え?うちに?
ありえへんやろ。
「光、自分なに寝惚けてんねん」
「どつくで」
「いだっ」
「俺はもっと痛い」
更に寝惚けたことを言ったあげく本当にどついてきた光だが、くしゃりと表情を歪めた姿に何も言えなくなる。
なに言ってんねん、ほんまアホやろ、ありえへんやろ、泣きそうなるなよ。
なんやその面、ちっさい時ガチ喧嘩して以来の情けなさやで。
とりあえず多大な勘違いをしてるらしい光の目を覚まさせそうと、痛む腕はスルーしてキッと下から睨み付ける。
なんやねん、身長伸びてこない差広がったのに中身はまんまかいな。
まったくもう、可愛いやっちゃな。
「光、うち彼氏居らんよ」
「…え」
「遊びに行くんもいつものメンバーや、あいつらが女扱いせーへんのも自分重々承知しとるやろ。そんなデマどこから聞いたんやまったく、中学生の分際で彼氏なんてうちには早すぎって毎回言うとるやろ、アホ」
呆けたなっさけない顔をしてるものの、ちゃんと話は聞いてるらしく腕を掴む力が徐々に弱くなる。
その隙を逃さず腕を振り抜き立ち往生していた光を潜り抜けて走れば、無事に逃れた安堵にオッシャ!と内心ガッツポーズした。
ほんまあかん、ガチ急がなハイエナどもにたかられる…!
「な、名前!」
「あんたの勘違いやから安心してうちを見送れ!ほな!」
「ちょっ、待たんか…」
外門近くまで走り、このままだとテニス部が荒れそうな気がしたので鑪を踏みながら若干上半身を後ろに捻った。
視界に入った光は悔しそうな顔をしながらうちを睨み付けてるが、まあ慣れたもんで怖くもなんともない。
ほんまアホやなあ、なんでわからんのやろ。
「うちが誰かと付き合うにしても、自分以外ありえへんってわかるやろ光のアホ!」
「アホはお前や!………え?」
「ほな、しゃんと部活気張りやー!」
「…え?」
これ以上は話に突っ込まれへんよう全力失踪で街中を目指す。
さっき以上のアホ面が見れたんわ愉快やったけど、後々の事を考えれば若干早まった気がした、が、まあええか。
次の日、このやりとりを見ていた学校のダチ共と教師に散々ネタにされるのをうちはまだ知らない。
2013.9.20