dream | ナノ
バイトに向かうために朝早くから自宅を出発していた私は、どんよりと浮かぶ雨雲に何か嫌な予感を感じながら自転車を漕いでいた。
徒歩三十分、自転車をノロノロ漕いでも十分で辿り着くバイト先なため雨が降ってもまあ大丈夫だろ、と軽い考えで嫌な予感を天気に置き換えた私。
この考えがダメだったのかもしれないと今は後悔している。
別に遅刻するような時刻でもなかったのだから、この時家に引き返して折り畳み傘でも取りに行ってたなら状況は変わっていたのかもしれない。
「っ…ヤベ、降ってきた」
自宅を出て六分、鼻先に感じた冷たさと乾いた道路に黒い斑点が徐々に出来上がっていく様を見て眉を寄せた。
本降りになる前に早く着かなくては、とペダルを漕ぐ足に力をいれて曇り空を睨み付ける。
慣れた通勤路の角を曲がるために空から視線を外して立ち漕ぎを始めた、その瞬間だった。
「…!」
まるで空間すべてがスローモーション。
視界に入るのは間近にある点灯していないトラックの大きいヘッドライト。
ヤバイ、なんて考える暇もないまま、全身に走った衝撃を最後に私の意識はプツリと消えた。
次に目を覚ました時には、見知らぬ男性が少しだけ顔をしかめながら腕組みをして椅子に座っている状況が目の前にあった。