dream | ナノ


そう、それはとても魅力的で、理想的で、神秘的で、そしてまさに破壊的なほどつまらない世界だった。

「ヘイ!ボーイ?」

そう馬鹿みたいなありきたりで面白みもない誘い文句を、自慢でもある豊満なボディを惜し気もなく且つ最大限に利用しながらそこら中に言い触らす。いったい、今日はどんな馬鹿がかかってくれるかな?いつも考えるのはそればっかり。それ以外に考えることも無かったし、そして余り他人に興味をもたないあたしはそれだけを考えてればそれでよかった。
不便はない。楽なんだ。この上なく楽で退屈な暮らしだった。陽が上ればそれと同時に男が起きる前に金目の物全部引っ掴んで出ていって、売れるもんは売っぱらってそして陽が暮れる前にまた違う男に媚を売って一晩明かす。最高に簡単で最高に自由で最高に退屈で最高に茶番だと思えるこの暮らし。嫌っては無い。寝床に困んないし。嫌っては無い。空腹に悩むことなんて無いし。嫌っては無い。男が挙ってあたしを誉めるのを見るのは別段嫌いじゃないし逆に気分がいいもの。

でも『退屈』だった。

この上なく退屈で詰まんなくて変化が欲しくてだけどあたしの周りにはなにもなくて。退屈だった。この暮らしは嫌いではなかった。でも暇だった。なにも考えないことにも飽きた。なにかを考えたかった。頭を使いたかった。でもあたしの周りにはなにもなかった。あたしの周りにはなにもなくて、だけど唯一あるそれはきっと『絶望』だった。あたしの世界に名前があるなら、それはきっと『絶望』。きっとそんな名前。
別に悲観なんてしてなかった。するところで無駄だってのも知ってるし。だけど名前なんてそれしか見つからなかった。見当たらなかった。悲しくとも何とも無いのに。あたしの周りにはなにもなくて、そしてこの町にはそんな奴らが蠢いてた。汚かった。欲にまみれてた。狂ってた。

あたしもその中の一人だった。

でもそんなこと気にしなかった。気にする必要もなかった。あたしは欲まみれ。町全体が欲まみれ。なにが悪いの。あたしは正しかった。

だけどやっぱり、退屈だった。

「お前は壊れてるよ」

その日あたしに引っ掛かった馬鹿な男が、素面のくせにこのあたしにそんな愚嘲をほざきだした。はじめてみた顔だった。オーラが違った。髪と一緒になって光ってたその風変わりなオーラが今までとなにか違うとあたしに訴えてた。だけどあたしは今までと同じようにこの男に接してベッドに入ったあとに言われた一言があのことば。
彼は確かに違ってた。あたしは確かに壊れていた。だけどあたしの居るこの町全部が壊れてて、だから皆自分が壊れてるなんて気付かないからあたしはこの男が壊れてるんだと思った。頭が可笑しな奴だと思った。実際可笑しいのはあたしだったのに。
男は度々見かけるようになった。あたしが逃げてまた出会っても男はなにも咎めず同じことを繰り返した。だからあたしも繰り返してた。暇で退屈でなにも考えないで寝床があって食物があって自由があって欠落していて退屈で退屈で退屈で退屈でそして絶望だと思われるこの生活を。滑稽だった。愚かだった。それでもあたしは気付かなかった。嫌いじゃなかった。だけど、退屈だった。

「なあ、俺と行かないか?」

あたしを壊れてると言い表わした、髪と一緒になって光ってるその風変わりなオーラを纏った男が何度目かとわからない夜を過ごした後唐突に言いだした。ああ、彼は壊れてると思った。可哀想だと思った。考えることをやめて腐っていたあたしの脳は、彼は金目の物だけを持つ風変わりな可哀想な人と位置付けた。この町を出られる訳が無いと決め付けてたあたしは彼が可哀想だと思った。頭が壊れている彼が可哀想だと思った。それをあたしは彼に伝えた。生まれたままの姿をしているあたし達は同じ金髪で、同じ白い肌で、同じ言語を使っているのに、すべての格が違うと感じた。

「壊れてんのも可哀相なのも、全部それに気付いてないお前だよ」

退屈だった暇だったなにも考えてなかった自由だった欠落していたなにもなかった絶望だった風変わりなオーラに出会った君と出会った真実を言われた。彼が真実だった。すべて壊れたこの町に、なぜか真実が居座っていた。あたしはすべてわかった。
日常が変わった。男の手をとった。この町から出た。

「ディーノ、貴方は何?」

「お前が求めてたもんだよ」

彼は、あたしを退屈から外へと出した。



欠落した



さようなら

これからは
    退
    屈
    な
    ん
    て
言わせない




彼はあたしに言ったんだ。
赤い糸を辿ったら、オーラを纏うあたしを見つけたと。

2007..

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