dream | ナノ

清々しい晴天がそこかしこに散らばる雨露をキラキラと反射させる。
明朝まで降り続けていた雨の名残が木の葉の里を一層輝かしい姿に変えているその様子に頬を緩めつつ、さて、今日はいったい何をしようかと宛もなくぶらぶらと街中を歩いた。
久方ぶりの休日なのだから図書館でも良いし、この辺りならば団子屋に赴き団子を全種類平らげるのもまた一興だろう。
昼が近いので一楽のラーメンに行くのも良いかもしれない。
点在する小型の水溜まりをすいすいと避けながら一日の予定に想いを馳せる。
冬が近づいているせいか最近すこぶる寒くなってきた事を髪を撫でた冷たい風で実感したなら、やはりまずは身体を暖めようかと第一の目的に足を進めた。
陽射しがあろうと吹き抜ける風は容赦無く冷たく身体を冷やすものだ、ならば内側から暖を取るのにラーメンは欠かせないだろう。

「らっしゃい!おお、名前じゃねぇか!」

「ああ、おやっさん久しいな。変わらず元気なようで何よりだ。チャーシューを一つ頼めるか?最近冷え込んだせいで一楽のラーメンが恋しくて仕方がないんだ、大盛りで頼むよ。ああ、自分で言っておいてなんだが寒さがなくとも一楽のラーメンは世界一美味いがな、季節の移り変わりは更にそれを引き立たせるスパイスだと染々感じるものだ」

「はは!ありがとよ、お前も相変わらずよく喋るな!」

久々だからサービスしてやる!という言葉にありがたさを感じながら、椅子に座ればヌクヌクと暖かい空間にホッと息を吐いた。
ああ、この暖かさは身に染みるな…。
ラーメンが出来上がる行程をぼんやり見つめながらおやっさんの手際の良さと看板娘であるアヤメのコンビネーションに感心していたなら、ガヤガヤと若干騒がしい声達を耳に拾いツイッと視線を横にずらした。

「お」

「あ」

「あー!名前姉ちゃん!久し振りだってばよ!」

「うおっと…ああナルト、久しいな。お前も変わらず元気が良いようでなによりだ。皆任務帰りか?お疲れ様」

「名前さんもお疲れ様です。こらナルト!出会い頭に抱き着いてんじゃないわよ!しかもカカシ先生の前で!」

「え…なんで?」

「…ウスラトンカチ、良いから早く離れろ」

「んだとサスケェー!?」

「まあまあまあまあどうしたお前ら、良いから座れ。おやっさんにどやされるぞ」

見覚えのある面々が一楽に入り込んだかと思えば、いち早く私に気付いたナルトが満面の笑みを浮かべながら抱き付いてきたため難なくそれを受け止めた。
いやあ、下忍になり昔よりはでかくなったと言ってもまだまだ子供だな、可愛い奴め。
ナルトの後ろに控える他の下忍第七班を見れば、其々が個々の反応をしていたので取り敢えず皆に座るよう促す。
話は食べながらでも出来る、一楽に居るのだから営業妨害になる前に注文をするのが筋というものだろう。

「で、だ」

「んー?」

「カカシ、なぜお前が私の隣に座る。さっきの私とナルトのハグを見てはいなかったのか?あの状況からいくとナルトが私の隣に座るのが自然だと思うのだが。それにほら、見てみろ。ナルトも拗ねてしまったじゃないか。お前は私の隣ではなくあちらの奥に行くべきでないか?何故嫌がる子供を退けてまでここに座る、意味がわからないぞ。もしやその席がお前の特等席だというわけでもあるまい」

「そーだそーだ!姉ちゃんもっと言ってくれってばよ!大人気ねーぞカカシ先生!」

「ナルトー、あんた空気読みなさいよね。カカシ先生ってどう見ても…」

「ふん…くだらない」

クールなサスケはさておき、サクラがナルトに耳打ちをした瞬間衝撃を受けた反応をするかと思えば急にニヤニヤと笑い始めたので首を傾げた。
はて、なんだろうか、急に機嫌が良くなっている。
なら仕方ねーってばよ!と言いながらカカシを肘で小突いているナルトは至極楽しそうだ。
まあ、ナルトが納得したならもう何も言うまい。
四人よりも一足先に出てきたおまけ付きチャーシューメンを啜りつつ、そういえば隣に座ってから一言しか発していないカカシにこいつは本当何がしたいんだと眉を寄せた。
内側からじんわり広がる暖かさに気分が落ち着き、後は汁を啜るだけという段階で隣に視線を向ける。
なんだか痛いくらいの視線を感じると思ってはいたが、案の定カカシがこちらをガン見していたのでその異様さに思わず動きが止まった。
なんだ、お前なにを見ている。

「…どうした?顔に何かついているか?あ、もしかしてチャーシューが欲しかったのか?まったく、何故言葉にしてそれを言わない。見てみろ、既に完食してしまったじゃないか。見ているだけで貰えると思ったらそれはお門違いだぞ。そんなことより自分のラーメンを食べ…終わってるな。相変わらずの早食いだ、任務でないなら味わって食べれば良いものを。…だからなんだ、いい加減お前の視線が鬱陶しいのだが。ほら、チャーシューは欠片も無いぞ」

「んー…毎度の事だけど、お門違いなのはお前の方だからね?で、なんだけど…ほら、オレ達久々に逢ったわけじゃん?…何か感じることない?」

「ふむ……………今ひたすらに考え込んでみたんだが…別に無いな」

「ブッフゥッ」

「こらナルトー!吹き出すな!気持ちはわかるけど!汚い!」

「だ、だってサクラちゃっ…ブフッ…姉ちゃんあんまりだってばよ…!」

「静かに食事も出来ねぇのかてめぇら…」

「んだとサスケェー!…ってお前もちょっと笑ってんじゃねぇか!一人だけクールぶってんじゃねぇってばよこのムッツリ!」

急にぎゃいぎゃいと騒ぎ始めた子供達に元気だなーと感心する。
なんの任務をこなしてきたのかは知らないが、こんなに元気ならば午後にもう一つ任務がこなせそうだ、木の葉の若葉が頼もしく育っているようで何よりである。

「よくわからんが…皆元気だな。カカシ、こいつらと行動を共にしているとお前も年を感じるのではないか?いつの間にやら私達もいい大人になったものだ………いい大人と言えばそうだ、お前。以前話していた彼女とやらはどうなったんだ?」

「え、なんで急に…てかいつの話よ、それ」

「ふむ、そうだな…ざっと一年と三ヶ月前か。あの時はのらりくらりと話をかわされたが、今はそうもいかんぞ。これだけ時が過ぎれば何かしら進展があった筈だからな、私はとてもお前の惚気話を聞きたい。さあ、話してみろ。遠慮はいらんぞ、私はお前の崩れる顔を見てみたいだけだからな……おっと、今のは失言か」

「いや…なんかもう…失言どころが何かが抉れた気がする…」

自身の胸元を押さえながらどよんとした空気を背負い俯いたカカシに若干引いた。
なんだ、なぜそんな…私の言葉のどこに落ち込む要素が………ハッ!

「おいサクラ」

「はい?」

一つの可能性にピンときた私はこの中では一番しっかりしているだろうサクラに声を掛け今後の予定を聞き出した。
どうやら後は解散するだけであり今日の午後は丸々自由時間らしい。
ふむ、なるほどなるほど好都合だ。

「そうか、なら今からカカシを借りても支障はないな?」

「あ、はい。大丈夫ですけど…」

言葉を濁したサクラは未だに影を背負っている情けない上忍を見て頬を引き吊らせた。
ナルトとサスケの態度も似たようなもので、カカシ相手にドン引きしているのが手に取るようにわかる。
ああ、うん、今は許してやってくれ。
今から私がこの空気をかっ飛ばしてやるから心配するでない若人よ、ここはお姉さんに任せたまえ。

「善は急げだ、行くぞカカシ!」

「は?…え?え?急にどうしたの?!」

「今から私がお前の憂いを晴らしてやる」

ドンと任せなさい、と胸を張ればなんとなく期待のような光を瞳に宿したカカシに私はニヤリと口角を上げた。
まったく、お前は幸福者だぞ、感謝しろ!



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