「ここはきれいね」
白の景色が埋め尽くす景色を見ながら彼女は小さく呟いた。
廃れた古城、剥き出しの枝が連なる枯木、それを白で塗り潰す綿雪。
まるで死んだ世界、と微笑みながらまた小さく呟く。
愛しそうに、悲しそうに、嬉しそうに、泣きそうに。
混じり合う感情は言葉にならず、上部だけの景色を見つめながら小さく、小さく。
彼女は儚かった、彼女は惨めだった、彼女は弱かった、彼女は哀れだった。
故に、彼女は美しかった。
「死んだ世界がきれいなのか?」
緩い速度で歩みながら、白の世界に唯一色を残す赤のモノが言葉を返す。
至極愉悦を感じたような笑みを張り付け、黒眼鏡で瞳を隠した彼は彼女だけを見据えていた。
「きれいよ」
止む気配の無い綿雪は二人を覆い降り積もる。
そっと差し伸べた掌に一欠片、形の変わらない白を乗せて彼女は瞳を細めた。
「私達の前では、形を留めてくれるもの」
溶けない綿雪は、結晶の一つ一つを美しく煌めかせながら鎮座する。
「…明日にでもなれば消える」
「だから太陽は嫌いよ」
「そうか」
「あなたも嫌いでしょう?」
「ああ…大嫌いだ」
熱を持たない二人はまた、笑った。
2013.8.6