dream | ナノ

時間的には数分の遅刻だったけれどハヤピーと話してたし一緒に教室に入ったということで遅刻にはならなかった。
大雑把なあの性格が好きだ、実際の歳に一番近いのハヤピーだし彼が担任で本当に良かったと思ってる、イケメンだから目の保養にもなる。
教室に居ながらも眠いという理由で大半を寝て過ごした午前も終わり、いつものように雪と麗奈と私で今は屋上でお昼を食べていた。
今日は駄菓子ではなく麗奈お手製のチーズケーキが弁当後に待っている、楽しみで仕方ない。

「ねえねえ麗奈聞いてよー。昨日名前家まで送ってくれたんだー」

「え、そうなの?」

「うん!」

「……さすがだね」

「んあ?」

弁当をつつきながら上機嫌な雪が麗奈に昨日のことを話したら、まじまじと感心した表情で麗奈に見つめられて思わず変な声が出た。
なんだい、こっち見んな。

「なに」

「んー、いやね。雪の実家を知ったら大抵みんな引くからさ。変わんないなーって。私は昔から気にしてないけど」

「ああ…別に?あんたと一緒で私もんなこといちいち気にしねーよ、関係ないし」

「だから名前好きー!」

「あんがと」

「良かったね、雪」

うへへーとアホみたいに笑う雪が可愛くて頭を撫でた。
そうか、こいつも何だかんだで苦労してんのかな…たまに見せるクラスメイトとのぎこちなさは実家からか。
家がヤのつくお仕事してても別に…ねえ?
雪事態はただのアホな子だから気にしたところで時間の無駄だと思う。

雪のアホ面を微笑ましく見ていたら、屋上の扉が軋んだ音が聞こえたので皆でそちらに視線を向けた。
若干警戒した雰囲気なのは昨日のことがあったからかもしれない、過敏になりすぎだお前ら。

「お!やっぱ居たCー!な、宍戸!」

「おー、ここ溜まり場なのか」

屋上に入ってきたのは予想外にもジローと宍戸の二人だった。
いや…何で来た。
屋上は私物じゃないから他の生徒も使用するけど、ジローはともかく宍戸が来たのは初めてだと思う。
私に良くない噂が広がってるためか、昼休みをここで過ごすことが定着した今あんま来る人いないんだけどね。
朝方の後輩を思い出してかなり気分が低下した。
こいつもか?いやまさかな。

「二人ともどうしたのー?」

「ジロー君と亮が一緒って珍しいね」

「お、麗奈も居たのか」

「まあね、お弁当食べに来たの?」

「ああ…いや、弁当は食い終わったぜ」

「雪たちを探してたんだCー」

「ん?私ー?」

各々が好きに話を始めたので私は気にせず弁当を貪ることにした。
ジローは屋上での一件以来駄菓子やらポッキーの交換とかで接触はあるが宍戸は全くない、関わりは選択授業が一緒なだけだから話す理由もないし。
二人は麗奈のクラスメイトだから麗奈に用があったんだろう、教室同じなのにわざわざ探すってなんでだ、面倒い人たち。
弁当をもしゃもしゃ食べながら四人を眺めていたら宍戸と目があって眉を潜められた。
非常に嫌そうな顔をしている。
なんだ急に…愛想ねぇな。
まあ私も無いから良いけど。

「雪と名前にねー」

「あ?私?……残念だけど今日は駄菓子ないよ」

「えー!」

「いやちげーだろジロー!」

鋭いツッコミが宍戸から放たれた。
一刀両断だ、だけど駄菓子以外の用事が思い付かなくて私は口を動かしながら首を傾げる。
なんだ…やっぱ昨日のこと?

「ジローはだな、松本と……あー、なんだっけ…名字?つったか?とりあえずその二人の居そうな場所一緒に探してっつーか、教えてくれてだな…付き添いだ付き添い」

「ジローくんたまに来るもんねー」

「私の駄菓子漁りにね」

「名前は買ってないんだから人のこと言えないでしょう」

「えー…ごめん」

事実だから言い返せなくて謝れば麗奈に頭を撫でられた。
急になんだお前…なんか複雑。

「で?なんの用」

「あー…まあ昨日だな…」

話が進まないので促せば、頭に手をやり決まりの悪そうな顔で予想通りの言葉を言われたから思いっきり溜め息を吐いた。
やっぱりか、芸がないな。
いや別に急に曲芸やられても困るけどね。

「あー、うん良いよ良いよそれはもう。朝っぱらからもう鳳に言われたし。雪にも言ってあるし」

「いや、でもよ…」

「私のこと嫌いっしょ?無理しなくて良いって」

「な…っ」

図星であろう事を指摘してみれば案の定予想通りの反応をしてくれた宍戸を見てニヤリと笑った。
わっかりやす!
隠しきれてると思ってたのか、嘘つけないタイプだなこのロン毛。
いつの間にか食べ終わっていた弁当を確認したあとそれらを仕舞い込み雪の鞄を勝手に漁る。
お目当てのチュッパチャプスを発見してパッケージを剥がしたあと口に放り込んだ。
さすがに慣れたのか自分の物を取られたのに雪は表情一つ変えずに相変わらず能天気だ、強奪という名の調教をした甲斐があったな。

「宍戸君名前嫌いなんだー。まあ確かに名前ってあんま知らなきゃ絡むの抵抗ある感じだよねー」

「雪正直過ぎるCーッ!」

「名前が気にしてないんだし良いんじゃない?」

「チッ…激ダサだぜ…」

チュッパチャップスを舐めながらボーッと空を見る。
外野が好き勝手言ってるけどまさにその通りなので早くケーキ食べたいなーとまったく関係ないことを考えた。
別に誰に嫌われようがどうでも良い、万人に好かれたいだなんて大層で実現不可能なこと思ったこともないし大体考えただけで気持ち悪い。
女子高に通っていたときは平和に暮らすためにも当たり障りなく、且つ皆から好意を持たれるように演じていたけど思えばそれは自分が若かった証拠だと今なら言える。
そのせいか順風満帆ながらもかなり無理をしていたからかまったく面白味がなかったのだ、社会に出て対人関係を学んだ今、必要のない場所で自分を偽るのは時間の無駄だと思い知った。
自分を隠しながら手に入れた誰からも好かれる平穏な生活で、私が手にした物と言えば大まかに言うと何もなかった。
心から楽しまないと記憶には残らない。
記憶にすら余り無いのだから本当につまらなかったんだな。
学生時代と比べてかなり性格が冷えた今、誰に嫌われようがもうどうでも良いし敬遠された方が面倒が舞い込まないため昔もこうすれば良かったと思っている。
好き勝手生きると退屈でもなにかと楽しいものなんだと現在進行形で学び中だ。

「とりあえず…松本、名字、ありがとう」

「気にしないでー」

「うん」

正直に言うとこういうお礼っていうのは言わなきゃモヤモヤするっていう義理的なやつだろう。
嫌いな相手に借りを作ったら癪に触るからとりあえずお礼だけでも言ってスッキリしたい、というのは誰にでもあることだ。
雪に向けての言葉が本心なのは顔を見ればわかる。
というか私を見るときは思いっきり顔しかめてるし。
指摘したから隠さなくなったな…うん、こんだけわかりやすいと清々しいわ。

「じゃ、もう用事ないっしょ?」

「ああ」

「まだ居んの?」

「もう消えるっつーの。ジロー、行くぞ」

「えー。雪、ホントに今日は何もないの?」

「麗奈が作ったチーズケーぐがっ!?」

正直にチーズケーキを教えようとした雪の口を思いきり手で塞いだ。
バシン!とかなり痛そうな音がしたのでやったのは私だが思わず顔をしかめてすぐに手を離す。
うわ…こりゃ絶対痛いわ…。
口許を抑えて唸る雪を見ながら自分の食い意地の悪さを反省した。

「うわあ…」

「雪ごめんマジごめん。痛い?もしかして唇切れた?本当ごめんちょっと見せて」

「ううう…っ!うううっ」

涙目になってきた雪を見て本格的に焦る。
うわっ、うわっ、どうしよ。
泣かせかたならわかるけどガチな慰めかたなんてわかんねぇんだけど!
てか私が悪いんだから慰めるなんてもっての他で謝るしかないんだけどな!
土下座か?!土下座すれば良いのか?!
……ちょっと落ち着け自分。

「激ダサだな……じゃ、わりぃけど俺行くわ」

「あ、うん。わざわざありがとね」

宍戸の見送りは大人な麗奈に任せて私はとりあえず雪に謝り続ける。
私と一緒になぜかわたわたしているジローを置いて宍戸が屋上を出た頃、やっと口から手を離した雪はキッと私を睨み付けた。
いや本当…ごめんなさい。

「痛い!超痛い!ジローくん、これ切れてない?凄い痛いんだけど」

「んー、切れてはねぇよ!ただちょっと口の周り赤Eー」

「ホントだ……あ、はい、ごめんなさい」

同意したら更に睨まれて居たたまれなくなる。
あ、うん、謝る以外喋るなってことですねすみません。

「名前はチーズケーキ禁止!ジローくんにあげなさい!」

「えー!マジで?!楽しみにしてた…の、に」

「文句ある?」

「いや、無いっす」

「良いの?!マジマジ嬉Cー!」

一人だけはしゃぐ芥川に、筋違いだとわかりながらも若干殺意が沸いたのは言うまでもない。

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