dream | ナノ


目の前にいる女は己を鋭く睨み四肢の動きを隈無く探る。まるで視線だけでも射殺すことができそうなその瞳に背筋に何かが走った気がした。なんだろうか、これは。口端が無意味に上がった。

「何故お前がいる」

「んー、そんなこと言われてもねぇ」

暗闇が支配する空間に風が一筋。木の葉の揺れる音と共に女の綺麗な髪も緩く揺れる。月明かりしかないこの場はそれでも髪の毛一本一本を鮮明に光って魅せるから、その光景は正に幻想染みていて。能面のように無表情を張りつけている女は、まるで内に隠している激情に踊らされている。そう感じられるほど、この静かな空間は殺伐とした空気に溢れかえっていた。

「馴れ合うつもりなどない。とっとと行け」

「そんな堅苦しくなるなよ。仮にも仲間だろ?」

「ただの同盟だ。いずれ敵、ならば必要最低限の接触で支障ないだろう」

淡々とした言葉遣いで紡がれるそれは的をえているけれど、そんなことで引き下がる己ではない。彼女に感じた何かの正体が知りたくて、そしてこの不愉快なもやもやを取り除きたくて。返事は返しているけれど九割がた会話の内容が頭に入っていないのはそのせいだろう。唯彼女を引き止めるためだけの言葉のやりとり。傍に居れば何かわかるかもしれないという期待と、何故か彼女を視界から外したくないという欲求が交差する。なんだ?これは。何故か苛つきが募りはじめた。

「まったく、頭固いねぇ軒猿の隊長さんは」

「お前も隊長ならわかるだろう。その張りつけた笑みの裏には何がある?」

「…何の事?」

「私は警戒を表に出し、お前は警戒をその笑みの裏に隠す。手段が違うだけでやっていることに変わりはない」

そう言葉を繋げたなら、彼女は一瞬だけ儚気な表情を溢した。実際には溢していないかもしれないけれど、己の心情故かはたまた別の理由か。図星を刺された後に見せられたそれは、何処か人間臭さを表しているようで何故か胸に塊を残す。重苦しくて息の詰まるような、そんな黒い塊を。

「話はそれだけか」

「や、まあ…」

「続く言葉が無いのなら、去れ」

それとも私が去ろうか?なんていう言葉も何故か頭を擦り抜けた。垣間見えたあの表情は、今は綺麗に影を潜めていて。あれが、彼女の本性なのではないか。心を殺し自分を殺し、主に仕えるためだけに生きてきた、彼女の。その言葉に支配される脳は、彼女が去る映像を唯々記憶する。最後に聞こえた言葉に、何故か心が打ち震えた。

「上杉を敵にまわしたら……その時がお前の最後だと思え」

彼女が己に苦無を構える様を想像し、肌が粟立ったのは何故だろう。


2009.2.7

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