dream | ナノ

亜久津宅に泊まり次の日、優紀ちゃんに言われ無理矢理氷帝の近くまで私を送るというクソ面倒くさいことをさせられた亜久津は朝からかなり不機嫌だった。
なんかごめん。

「いやぁ…わざわざありがとね…」

「…」

「寝惚けたまんまで帰って事故んないでよ…」

「…」

「じゃ…また連絡するわ…」

「……」

早いと言っても八時十分、普段の登校時間と比べれば遅い方だが亜久津にとってはそんな時間に私をここまで送ったということにイラついてるらしい。
一応断ったんだけどね…ケーキの恩返し!と無邪気な笑顔で言われたから断りきれなかった。
優紀ちゃんの天使スマイルに負けた。
遅刻しようがサボろうが構わないんだけどなあ。
朝から元気に息子を恩返しに使った優紀ちゃん、パワフルである。

「…また買ってこい」

「……ああ、はいはい」

暗に、こんな面倒いことしてやったんだからまた奢りやがれと言われて無限ループじゃんと思ったけどまあ良いやとスルーした。
だって朝から考えるの面倒い、ダルい、色々話したり遊んだりしたせいで寝たの朝四時だから果てしなく眠い。
わざわざ送ってくれた亜久津には申し訳ないけど今日も一日サボりだなこれ。
原付でダルそうに去っていった亜久津を見送り、携帯で時刻を確認すれば八時二十分。
十分もぐだぐだしていたことに気付いてさらに体が重くなった気がした。
亜久津制服着てたけどちゃんと学校行くんかな……どうでもいいか、面倒い。
まっすぐ歩いて右に曲がれば目の前に広がる氷帝に溜め息を吐いた。
いつもより遅く来たせいだ、登校してくる生徒や部活終わりの奴らでごちゃごちゃしてる。
一気にダルくなったな、サボろうかな…でもテスト近いから範囲知らないしさすがに行かなきゃだな…予習くらいはしないとサボりも黙認されるような点数採れないだろうし。
学生って面倒い。

「あ、先輩!」

校門を潜り人混みに混じりながら下駄箱に向かっていたら大きな声が聞こえた。
私には関係ないと気にせず歩き続けていたら後ろから急に肩を掴まれ体勢が崩れる。
え、ちょっ、え?

「あ、わわっ」

「うわっ…グフッ!……いってぇなっ」

勢いよくよろめいて、あ、尻餅つく、と思ったら背中と後頭部を固い感触にぶつけて少し身悶える。
痛ぇな誰だ。
一気に不機嫌になり背中に当たったらしい奴を見るために振り返れば、目の前に広い白が広がっていたため少し後ずさった。
後ずさって見えたそいつの顔を見て意味がわからないと眉を寄せる。
視界に広がった白はどうやらブラウスの胸元部分だったらしい、目の前にいると迫力あるなこいつ。

「すみません!先輩気付かないで行っちゃいそうだったからつい…」

「…なんか用?」

テニス部の二年レギュラー、鳳長太郎。
接点のない彼が私を呼び止めた意味がわからない。

「あの、俺、昨日のお礼を言いたくて…」

「は?」

お礼?
え、お礼どころか関わった覚えすらないんだけど。

「放課後なんすけど…名字先輩、助けていただいてありがとうございます!」

「…いやいやいや、話が見えない」

ビシッと頭まで下げてお礼を言う鳳に若干引きつつ、嫌に目立つからどうにか頭を上げてもらう。
てかなんで苗字知ってんだ。
ヒソヒソとこちらを見ながら去っていく周りの生徒達を睨みつつ、朝からなに意味不明なことを言ってるのかわからない鳳に目を向けた。

「意味不なんだけど」

「…昨日の放課後、松本先輩と街に居たの先輩っすよね?」

「まあ……居たね」

ナンパ男をあんたらに押し付けて逃げたからね。
ああ、そっちも気付いてたんだ、あのあとどうなったかは知らないしナンパ男をけしかけただけだから……やっぱ関わってないじゃん。

「じゃあやっぱり!」

「なにが」

「俺と宍戸さんが困ってるときに男の人たち向かわせて助けてくれたじゃないっすか!本当に助かりました、あのまま彼女がついてきてたら宍戸さんどうなってたことやら…」

あー…ああ。
あいつらがちゃんとあの転入生をナンパしに向かってその隙にこいつらは転入生置いて逃げたってこと?
私にお礼言うってことは、転入生に向けて指差した私を見てなんか都合のいいように解釈しちゃったっつーこと?
あー……あー、なんなの。
なんかテニス部って変な勘違い多くないか。
てかあいつよく男連れまでナンパしたな…見た目によらず勇者なのかもしれない。

「それだけ?」

「…え…」

「自分のためにやったからお礼言われる筋合いないよ、あの男から逃げたかっただけだし」

「知り合いなんじゃ…」

「知らない。ナンパされたけど逃げたかったからあの可愛い転入生に仕向けただけ。…もう良いっしょ?鐘鳴るからあんたも早く教室行きな」

これ以上相手にすんの面倒い。

「それでも…助かったのは事実なんで……ありがとうございました」

「あー…うん」

真摯な瞳で真面目にお礼を言われたらそれ以上否定するのもなんだか可哀想に思えてやめた。
転入生一人に大袈裟じゃね。
素直にお礼を受けった私に満足したのか、穏やかに微笑んだかと思えば周りに生徒が少なくなってるのに気付いたらしく鳳は急にハッとした表情でそわそわし始めた。
あと二分で予鈴だ、彼にとって遅刻は厳禁なのかもしれない。

「あの。すみません、俺行きます」

「うん、じゃね」

「あ、俺二年の鳳長太郎って言います!名字先輩は慈郎先輩と跡部先輩の二人と仲良いんで知ってるかもしんないですけど…」

ああ、だから苗字知ってたのね。
跡部先輩って男マネだよな…ややこしい。

「わかってるから、知ってるから。早く行きな、校舎広いんだから急がねーと遅れるよ」

「はい!じゃあまた!」

いや、またはないと思います。
忠犬を浮かばせるような眩しい笑顔で走っていった鳳の後ろ姿を見て少しばかり佇んだ。
純粋に真面目で良い子ってやつは本当…面倒い。
簡単に言えば性格悪かったりアホだったりな人間が好きな私にとってああいうタイプは苦手だ。
人間ってのはどこかしら欠点があるものだと思っている、良い子ってのは人間味を感じないから私は好かない。
まあ人それぞれだし鳳なんて今初めて喋ったから本当はどんな奴かわかんないけどね、私自分の性格が悪いから良い子ちゃん苦手なだけだし。
なんかこう…良い子ちゃんってわかりにくいし。

「…あ、予鈴」

登校時間五分前を告げる予鈴が鳴り、もう間に合わないかもなーと思いながらゆったりと歩き出した。
校舎が無駄に広いから玄関ホールから教室まで行くのに歩けば余裕で五分は過ぎる。
早歩きならギリギリかもしれないがそこまで急ぐのもあれなので朝礼の最中に乱入しようと決めた。
朝礼だろうが授業中だろうが平気で教室に入るのは神経が図太いとよく言われるが、私からすればそこで躊躇する必要性があまり理解できない。
授業丸々出ないより途中からでも参加すれば欠席扱いにはされないしな、躊躇する暇があるなら途中参加の方が特だ。

「お、名前ー」

「ん?…ああハヤピーか、おはようございます」

「今日はサボんなかったんだな、偉い偉い」

階段を上ろうとしたら担任のハヤピーと遭遇した、よっしゃこれで遅刻じゃないや良かった。

「朝の挨拶くらいしてください。だから生徒にも舐められんですよ」

「あ、おはよう!」

「遅い」

「…すみません」

生徒にこんな言われて大丈夫なのかこいつ。

「名前さ、なんで学校サボんだ?クラスで孤立してるわけでもねぇし。反抗期?」

ゆったりと歩きながら話続けられる。
まあ、自分のクラスの生徒がサボり魔なのは嫌だよねー、初担任だから学年主任の水センにでも説教されたのかな。

「水センに怒られたー?」

「まあな。俺からすりゃ出席数とか考えてやってるみたいだし勉強もクラスで上位だからあんま気にしてないんだけどよ…悩みとか不満があんなら相談乗るぜ?」

「私悩んでるように見える?」

「そういうのは見た目じゃわかんないからな。俺も昔はかったりーってだけで学校サボってたが……お前の場合もそんな気はする」

「ご名答。悩みはないけどあんな勉強する気起きない」

「でも学校ってのは勉強だけ学ぶ場所じゃないぞ?」

「わかってるって」

今さら中学生活を真面目に満喫する気が起きないだけだよハヤピー。

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