dream | ナノ

二十分ほど歩いたあと、街に逆戻りした私はお目当ての店を後にして手土産を片手に待ち合わせの所に向かっていた。
待ち合わせ場所は裏道にある、私が初サボりで迷子になった時に見つけたあの狭い公園。
彼はちゃんと来てるだろうか。

「…あ、居た。よう亜久津ー」

「遅え」

「んなバカな。……あ、ホントだ。ごめん」

「ちっ、早く乗れ」

「おー、はいコレ」

「いれろ」

「ん」

携帯で確認したら十分遅刻していたらしい。
なのに公園の入り口でちゃんと待っていた亜久津に微笑ましくなり実際ニヤニヤした。
今日は約束通り私の奢りで亜久津に物を渡す日だ、目当ての品はやっぱりモンブラン。
買ってこいと言われただけだけど、新しいケーキ屋で美味しいと評判のモンブランがどうしても食べたいのだがこの怖面のせいで店に入りづらかったんだと私は勝手に解釈している。
騒ぎそうだしメンドイからさすがに本人には言ってない。
中学生だしグレてるもんね、周りの目気にしちゃうよねー。
可愛いなオイ。
亜久津をナンパしてから少なくとも三日に一回はメールか電話のやり取りをしていたし、既に五回くらい一緒にサボったり家に行ったりと着々とお友だちになろう作戦はうまくいっていた。
好きな食べ物が栗だという情報を教えてくれるまでには親交は深まったようだ、中々お詫びの品を注文しない彼にモンブランが良いんじゃないかと助け船を出してくれた亜久津ママ、もとい優紀ちゃんマジ天使。
栗と違ってモンブランはさすがに言いづらかったのかな…甘いの好きとか女子にとっては好ポイントだろうに。
今から亜久津宅に行き買ってきたケーキを食べることになっている、優紀ちゃんの分もバッチリだ。
原付の椅子を開けて出来たスペースにケーキの箱を置いたけれど、普通はヘルメットをそこに入れてるものではないかと首を傾げた。
なんで原付持ってるのかは聞くだけ無駄だと思ってる。

「メットは?」

「ねぇよ。嫌なら走って着いてこい」

「それこそあり得ない。走らせる気なら帰るわ」

「ごちゃごちゃ言ってねぇで早く乗れ」

脇の下を抱えられ無理矢理後ろに乗せられた。
お……ほうほう、こいつ手慣れてるな。
力の加減も慣れてるのか、存外優しくやられたそれにニヤリと口角が上がった。
彼女か、彼女乗せてるのか?
恋バナ好きとしては見逃せねーな、見逃せねーよ。
桃城の口癖は使い勝手が良くて好きである。
関係ないな……よし、あとで聞くとしよう。
亜久津が私の前に座ってハンドルを握ったのを確認すれば、ニヤニヤしながらも急に沸いた好奇心に負けて中身を出す勢いで目の前にある背中に抱きついてみた。
私のバカ力を受けてみよ!

「ぁあ゙!?ガ、グオオ…ッ!テメッ、このクソアマ轢くぞっ…グアッ!マジやめろ…っ」

「ふっ……うへへ。うん、満足した。よっしゃ行くぞー」

どんなリアクションしてくれるかどうかの好奇心である、たぶん今を逃したら無理だと思って。
想像以上の反応いただきましたー、ご馳走さま。
グオオ…ッ!って…グオオ…ッ!って言ったよこの男……ぶふっ!

「ぶっは…っ!く、くくっ、も、あっくん最高…っ、グフッ!なんだこれ後から地味に来るっ…ひっ…くははっ!」

「死ね!」

「生きる!」

「殺す」

「もっかいやんぞ」

「行くぜ」

「ちょっ…うわっ」

瞬時に切り換えた亜久津についていけなくて急発進した原付に落ちるかと思い普通に恐怖した、ガチ落とされるかと思ったやべぇ。
え、そんなに嫌だったの。
風が当たるから肌寒いし落ちそうだしで不安定なので、今度は普通に亜久津に掴まることにして彼の体に腕をまわす。
服越しの人肌が暖かい。
久しぶりのニケツにテンションが上がって歌いたい気分になった。
さっきまで三時間カラオケ行ってたくせに…まあ七時間は余裕だからな、仕方ないか。

「んーんんんんーんんーんんーんーんんんー!……ねー!コレさすがにパクったやつじゃないよねーっ?」

「あっ?」

「だーかーらーっ、パクったやつじゃないっしょーっ?」

「聞こえねぇっ」

今の雰囲気にピッタリの、今は亡き有名な某歌手の歌を鼻唄で歌ったら少しばかりの不安が頭に浮かんだ。
いや…盗んだバイクで走り出してないよねこれ?
原付から漏れるうるさい音と、風で声が後ろに流れるせいか亜久津に私の疑問は聞こえていないようだった。
ちょっ、おま、ノーヘルはまだ許容範囲だけど盗難車だったら許さんからな私。
聞こえてないのを良いことに思いきり悪態をついてみた。

「原付のマフラーなんかに穴開けっから聞こえないんだ!うっさいんだよコレ!ご近所の迷惑だろそこらへんも考えろおバカ!てか原付のマフラーに穴ってショボいなカッコワル!ダサッ!マジダサ!激ダサッ!恥ずかしい!」

「テメェマジぶっ殺す!」

「なんでこれは聞こえんだよ!…ってギャアアッ」

私をビビらせようとしたのか振り落とそうとしたのか、狭い道なのに亜久津が蛇行運転をしたおかげで壁にぶつかるかと思った。
久々に生命の危機を感じた。
てかケーキが!ケーキが悲惨なことになるし私も落ちて悲惨な惨状になっちゃうからガチやめて!

「落ちる!死ぬ!落ちる!」

「ウゼェこと言ってねぇで大人しく掴まってろっ」

亜久津の背後からお腹まで落ちないように伸ばした私の腕。
自分の両手首をガッチリと握り亜久津を拘束していたけれど、声を張り上げながらも確認するかのように一回私のその両拳を握った彼を見て思った。
やっぱツンデレだよな絶対。

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