dream | ナノ
カラオケ三時間を終えた私たちは、たまに寄り道をしながらも帰るために外を歩いていた。
一曲目から千本桜をいれた雪に衝撃を受けたのは私だけの秘密だ。
いつの間に染まってたのこの子。
「そういえば一緒にカラオケ行ったの初めてだったねー」
「…え、そうだっけ」
「そうだよー。名前うますぎて歌いずらかった!」
「嘘つけ、普通に歌ってたろ…。まあ私の特技は歌だけだからねー、これがなきゃ自慢できるものがない」
「謙遜だー」
「言ってろ」
無駄話をしながら、雪を家に送り届けるために街から数キロ離れた住宅街を進む。
とっくに十九時を過ぎていて辺りは真っ暗だったので、さすがにほわほわした雰囲気のこの子を一人で帰すのは不安だった。
めんどいけど仕方ない。
私からすれば、十九時なんてまだ昼と同じじゃね?という行動の時間帯だけれど、普通の中学生なら部活や塾にでも通ってなければ中々外にはいない時間帯なんじゃないだろうか。
もちろん不良は除外だ。
「着いたー、私の家ここ!」
「……うん、意外だ」
「なんでー?」
麗奈曰く雪はお嬢ということだったから、勝手に自宅は西洋風なお屋敷をイメージしていたのだけれど目の前にある雪が指差した彼女の自宅はどうにもずっしりとした雰囲気が威厳漂う日本屋敷だった。
どうにも言いづらいんだが、うん。
あれだ………え、もしかしてお宅ヤのつくお仕事?という感じである。
予想外の光景に呆けながら辺りを見渡せば、豪勢な木製の外玄関に立て掛けてある大きい札が視界に入った。
想像していたものと寸分違わぬ文字が羅列していたのを確認して、その途端なんだかどっと体の力が抜けた。
お嬢って……お嬢ってそういう意味かよ。
確かにお嬢だな呼び方。
「あー、結構規模あんの?」
「…ん?なにがー?」
「だってここに本部?アジト?があるってことはここら一帯島っしょ」
「島?…ああ、そういうことね!ううん知らなーい。組の内情は関わってないもん」
「継がねーの?」
「ウチは会長継ぐの男って決まってるらしいよー。継ぐとしたら幹部の誰かか私の旦那様になる人かなー」
あー…なるほど。
頑張れ近林。
「送ってくれてありがとー。名前は帰りどうする?誰か呼んで送らせようか?」
「用事あっからいらね。んじゃね雪、また明日ー」
「えー…もーう!また明日ねー!気を付けて帰ってねー!」
「おーう」
家の前で長話もあれだと思ったのですぐに別れを告げて来た道を戻る。
後ろで雪が外玄関を開けたのか、木製の扉がギイッと軋んだ音が聞こえた瞬間『お帰りなさい、お嬢!』という野太い大音量とそれに応える呑気な声が耳に届いた。
おー、ありゃあガチだな。
麗奈の家もそっち系なのかと思ったけれど、確か大徳寺財閥は何かとテレビでも観るからそれほどでもないかもしれない。
まあ金持ちってのは裏でなにやってるかわかんないけどねえ。