dream | ナノ
暇潰し程度の学校も終わり素晴らしき放課後、学生はフリータイム五百円というなんともお財布に優しいカラオケに向かう途中。
なんの縁かばったり出くわしたなんとなく見覚えのある不良集団に指を指されながら声を掛けられた。
え、なに。
スルーしようとしたら前を塞がれて通れなくなる。
え…うざ。
「あー!お前はいつぞやの氷帝生!」
「……」
「いつぞやってなんだお前。ねえねえ、俺のこと覚えてる?また会えるとか運命感じない?」
「はあ?ナンパに運命は感じな…あー、微妙」
亜久津をナンパした私が運命感じないとか言えねえ。
私完全にあいつナンパしながら運命じゃねとか言った気がするもん、じゃあ運命なのかこれ。
……いや違うだろ。
もしここら一帯がこいつらの溜まり場なら遊ぶエリアなんて狭まってんだ、偶然バッタリは誰にでも起こりえる。
「やっぱね!運命だよね!じゃあ今日こそ遊ばね?その子も一緒に」
「奢りなら良いよ」
「え、ちょっと名前…っ」
あ、ごめん勝手に話進めて。
珍しく大人しいから忘れてた。
「雪は嫌?嫌なら断んよ」
「まあまあそう言わずに!」
「え…嫌って言うか、その…」
私に近付いて耳元で「ナンパって…危なくない?」と小声で言った雪にあー、と思った。
ナンパ初めてかこの子。
確かに最初ってあらぬ心配するよね、まあ私はそんな心配したことないってか勝つ自信あるからないけど。
てか危ない事態に陥ったことがない時点で私女子力皆無なんだろうなあはは。
虚しくなった。
「気分乗んないからやっぱパス」
「えー、良いじゃん」
「ウザい。…あ、あそこにめっちゃ可愛い子がいる」
「え」
ナイスなタイミングで派手な赤毛が見えたから指差したら案の定ナンパ男は後ろを振り向いた。
氷帝の基準服を着た男二人と歩いてる私服姿の赤毛女は間違いなく今日屋上に乱入してきた転入生だ、あの見た目は使える。
どうやら放課後なのに運悪く捕獲された可哀想な男二人は転入生と同じクラスだという鳳とペアの宍戸みたいだ、部活ないのにテニスショルダーを肩に下げてるってことは都内の屋外テニス場、つまりストテニにでも行こうとしてると予想される。
あの女は勝手に着いてきてんだろうな、なんか鳳は苦笑いしてるけど宍戸はやべぇよあの目……人殺しそうなんだけど。
楽しそうに二人の間でキャピキャピしている転入生は、二人の様子に気付きもせずすごく人生楽しんでます!と全身から語っていて正直言うと目に痛すぎた、さらに視力下がりそう。
私にとっては十分奇抜に見える転入生のその姿もナンパ男にはまったく障害ではないらしい。
うわ、やべぇ可愛い…と呟いたナンパ男をしっかり確認してから私は転入生から目を逸らし雪の腕を掴んだ。
よし、今日も逃げちゃお。
「雪、行くよ」
「う、うん」
雪に小声で話し掛けて彼らと距離をとる。
ナンパするのはあの男だけのようで、他に好き勝手やってた周りのダチっぽい奴等は呑気にじゃあねーと手を振ってくれた。
うん、馴れ馴れしいけど爽やかだ……あの男中三であんなナンパ慣れしてて将来大丈夫だろうか。
すぐそこにあったカラオケに素早く入り込み、怖かったーと呟いている雪の頭をポンポンと叩く。
なんか…私が雪を巻き込んだ感じなのかなこれ。
「んー……ごめん、すぐ追い返せば良かったね」
「逃げれたから良いよ、気にしないでー」
「うん。いやぁ、ちょうど良いとこに居たもんだよあの子」
「宍戸君たちと一緒だったねー。なんか嫌がられてたみたいだけど」
「どうでも良いけどね。よし、受け付け行くよ、生徒手帳出しなー」
「ぶ、ラジャゴフッ」
「あんた、公共の場ではやめとけソレ」
相も変わらずブラジャーと言いかけた雪の口を思いきり抑えた。
言いたいのはわかるけどね、場所は弁えようかおバカさん。