dream | ナノ
「マジかよ、会ったわけ?」
「うん。凄ぇよ」
「うげー」
「でも可愛かった、見た目は」
「皮ひっぺがせば人類皆同じ」
「ブフッ!」
「お前意外と笑いのツボ浅いよな」
悪かったな、最近楽しいからしょうがないんだよ。
五限が終わり六限が始まるまでの十分休憩の合間、授業中にメールで転入生と接触した際の感想を興味本意で男マネに送信したら後で来いと返信が着たため今に至る。
携帯で話せば良いじゃんと思ったけれど、男マネがいるA組は階が一緒ですぐに行けるしこんなことで電話料金が加算されるのもやるせないのでわざわざ赴いてあげた、寛大な私に感謝してほしい。
予想通りの反応をしてくれた男マネに少し気分が良くなった。
「でもうちらと同じとは限んないよ、ただのビッチじゃね」
「ビッチってお前な……いんや、教えてもらった話まんま過ぎる転入生だからな、違ったとしても一緒にマネ業は考えたくねえ」
「まだ接触してないの?」
「いや、初日は無理だろ。二年だし接点ねぇし。お前との初対面も結構経ったあとだったじゃん?」
「そんな昔のこと忘れた」
「一月経ってないんだけど!」
テニス部のレギュラー専用部室で親交を深めて以来擦れ違うたびに話すようになってたから一月経ってないと言われて少しビックリした。
ああ…まだそんなもんなのか。
「まったくそんな感じしないけどな」
「うん、私もそう思ってた」
「以心伝心じゃん。……おえ」
「んだその反応ゴラァ」
「テヘペロ!」
「キモッ」
「…あ、なにお前そんなに俺と以心伝心でいたいの?お?なにツンデレ?」
「気持ち悪いです」
「せめてキモいにして傷付く」
ダメージ受けたわーと言いながら机に突っ伏した男マネの後頭部をベシッと叩いた。
彼はなんか叩きやすい。
突っ伏した状態の男マネがクラスメイトに宥められているのを見て、話が逸れたし報告は済ませたからもうE組に帰ろうと私は立ち上がった。
席を貸してくれた子にありがとーと言ってから最後にもう一発男マネを叩く。
あいつマジ女じゃねえ、って小さく言ってるつもりかもしんないけどしっかり聞こえてるからなオイ。
こんなでも一応女を捨てた記憶は無いからな私、一応。
女としての自覚が足りないって言うなら否定はしない。
遺伝だから仕方ないとか言い訳してみた。
「いてーな、ったく……どんな遺伝だよ」
「こんな遺伝」
「お前みたいのが何人も居るとかやだ」
「うち来てみ、わかっから」
「え…さりげなく誘われちゃったよ俺、なにこれ作戦?」
宥めてくれていたクラスメイトにバカなことを聞いた男マネに今度は拳骨をプレゼントして私はA組を出た。
あれか、跡部家の遺伝は自意識過剰なんだな把握。
E組に戻り席に着けば、ニコ厨軍団に混ざってた雪が待ってましたと言わんばかりの早さで私のところに来たので思わず苦笑した。
あんたは犬か可愛いな。
「どこ行ってたのー?」
「A組」
「A組?跡部様見に行ったの?私も誘ってよー」
「……いや違うから」
ちょっと予想外のことを聞かれたので一瞬考え込んでしまった。
雪が言ってるのは様付けだから…キングのことだよね。
キングA組なんだ…え、まったく気付かなかったんだけど。
影が薄いということはあり得ないから周りを見てなかった私があれなのか……いや、居なかったかもしんない、そんな気がする。
キングは不在だったということにしとこう、猫被ったまま訂正してないから不審な印象あげちゃったかもだけど一回しか接触してないからあっち覚えてないだろうし、不在だったなら仕方ない。
週二の頻度でしか見学に行けなくなったファンクラブのおかげと、無事にインフルから生還した雪の友達のおかげで朝っぱらからコートに引きずられるという面倒なことはここ最近ぱったりなくなった。
放課後暇な時は雪に付き合ってコートに行ったりするけど、もっぱら雪を茶化したり嫌でも視界に入る向日の姿を内心無重力か!とツッこんでるくらいの接点しかない。
接点でもないなこれ。
キングは何かと目立つので見ると言えば見るけど、一々腹を抱えて笑うはめになるからあまり視界にいれないようにしてる、雪にはツンデレっぽいと言われたが訂正もめんどいからそのままだ。
猫被ったあの気持ち悪い私を可愛いとかほざいたの雪くらいだしな…やっぱ天然かこいつ。
「水曜だし今日テニス部ないっしょ?放課後カラオケ行かね」
「行くー!奢りあざーっす!」
「奢るなんて誰も言ってねえよ」
お嬢のくせに庶民にタカるなおバカ。