dream | ナノ

放り投げられた携帯を勝手に操作し連絡交換は終わり、携帯に入った名前を見てフルネームをゲットしたということにして遠慮なく名前を呼ぶことにした。
確認ということで私の名前も携帯越しに見せたけど覚えたかどうかは知らない、まあ覚えなくて良いけど。

「亜久津はよくここ来んの?」

「どうでも良いだろ」

「私迷子になってたまたま来たんだー、運命感じない?」

「ウゼェ」

「こっち来てから不良あんま見なかったから嬉しくてね、許せ」

「……」

プカーと煙を吐き出しながらも確実にニコチンを接種してる亜久津と会話……会話?
とりあえず会話らしきことをしながら時間を潰していた。
ちなみに私はブラックサンダーをもくもく食べている。
差し出したらタバコを口に加え無言で拒否られたから奴にはあげないと誓った。

「ああいう喧嘩いつもやってんの?」

「……」

「のわりには制服綺麗だし。あんま喰らわないわけ?」

「……」

「今日は喰らってたみたいだけどねー」

「ああ゙?」

「ボキャブラ無いなあんた」

いやあんま反応なくても良いけどね、おちょくってるだけだし。
暖かい日差しと少しだけ冷たい風が気持ちいいなか隣には目付きの鋭いタバコ吹かした不良。
なんか…平和だ。

「髪乾いてきた?」

「あ?…まあまあだな」

「どれどれ…お、もう良いじゃん。やっぱ痛んでっから乾くの早いね」

「殺すぞ」

「やってみ。え、てか痛んでない髪だねーって言われたかったの?キモッ」

「殺す」

髪を触っていた手をはね除けられて頭に拳骨を落とされた。
痛…っ!容赦ねぇ痛い…っ!
え、これやり返しても良いかな、水攻めとか私が悪かったけどこれはやり返して良いかな。

「っ…いだいっ!」

「はっ、ざまぁみろ」

「こんにゃろ…」

なんかまた笑ってたからやり返すのは止めといた。
え…私スゴい心広くない?ヤバくない?
機嫌が良いことに感謝するんだな亜久津、普段なら倍返ししてたからね痛いの嫌いだから。

「あー……痛かった。よし、ワックスつけるよ」

「貸せ」

「えー…あー」

「さっきから好き勝手触りやがって」

見た目不良のでかい男がおとなしく言うこと聞いてるから楽しくて触ってた、なんて言ったら怒るだろうか。
持っていたワックスを取られ、慣れた手つきで自分で髪を立たせる亜久津は徐々に紙面で見慣れた姿に戻っていった。
若干合った可愛さが髪型のおかげで微塵もなくなる。
ああ、やっぱ髪型って大事だな……別人やん。

「じゃーん、かーんせーい」

「棒読みで言うんじゃねぇよ」

「ジャジャジャッジャーン!完成ーっ!ヒューッ、あっくんカッコイーッ!痺れるーッ、抱い………いいや、疲れた」

「ウゼェ」

「ドンマイ。あ、鏡いる?」

「いらねぇ。あばよ」

水道で手についたワックスを洗い流した亜久津は私にワックスを投げるとすぐさま背中を向けてどっかに行こうとした。
あー、やっぱ用無くなればそりゃ居なくなるよねえ。

「バイバー………あ。ちょっと待て亜久津!」

「…まだなんか用か」

「さっき言ったけどさ…」

「……」

「私迷子」

「……」

「……」

「……で?」

「…知ってるとこまでお願いします」

チッと舌打ちされた。
いやなんかもう…色々とごめんなさい。


半乾きのパーカーを手に家路を歩く。
あ、ここ知ってる。と言った瞬間亜久津はなにも言わずに消えたから今は私一人だ。
ぶっきらぼうながらもなんとなく会話はしてくれたし、親切に道を教えてくれた彼はツンデレだ、絶対ツンデレだ。
変な萌え属性ゲットーと思いながらも、前の主人公や桃城を思いだして公園での遭遇率高すぎないかと薄ぼんやり思った。
公園って溜まり場なのかな…いやあそこはストテニだったか。
まだ昼前だけど両親は共働きだしじいちゃんとばあちゃんは老人会で市民センターだ、兄貴はもちろん学校。
この時間は誰も居ないだろうから真っ直ぐ家に帰っている。
帰ったらどうしようかな…引きこもりやるかせっかくの平日なんだから私服に着替えてカラオケ再挑戦するか…迷う。
学校に行くという選択肢はすでにない。
家について鞄から出した鍵で玄関を開けた。

「ただいまー」

誰もいないと分かってても帰りの一言は大事だ。
中に入って鍵を掛けてから靴を脱ぐ。
脱いでる途中でバカでかいローファーが視界に入って首を傾げた。
ん?……このくたびれたデカイのは…。

「兄ちゃーん、いんのー?」

間違いなく兄貴のだとはわかったけどなんでこんな時間に家居んだろ。
玄関を上がり台所と茶の間が繋がった部屋に向かう。
もしかして学校行ってないのかな…私の方が家出る時間早いからわかんない。

「あ、居た」

「…おう。お前帰ってくんの早くね、サボりか」

「おう。そっちは?」

「休憩」

「サボりじゃん」

「うっせぇ。ボコッぞテメー」

「きゃーこわーい」

「死ね」

「お前がな」

「んだとテメェ」

「んだコラ」

「やる気かゴルァ」

「上等だゴルァ」

そのあと兄貴が腹減ったと言うまで延々とゴルァゴルァ言い合うだけの無駄な時間を過ごした。
話を聞くとかったるくなって早退してきたそうだ、やっぱサボりじゃん。
兄貴は私の二つ上なため今は高二のサッカー少年、見た目と言動は不良そのものだし外だとカッコつけるため無口になる思春期そのものだが、実際はただの家族大好きチキンである。
キレたら殴り合いもするけど大抵あんまキレないし、高校行ってからはスポーツ推薦で入ったため喧嘩もなくなった。
確か前の世界じゃ高二あたりから少しだけグレてた気がする、今が調度その時期なのかもしれない。
こっちでもタイミングは一緒なのかな…なら放置だ。
たしか夏休み明け部活の顧問にパチンコで見つかってこっぴどい制裁受けてからまた真面目に学校行くようになってたからな。
兄貴単純バカだからまあ、また大丈夫だろ。

「キムチ炒飯で良い?」

「おー」

そして飯を与えれば大人しくなるから扱いやすい。
あー……なんか今日は兄貴の相手で終わりそう。

「あ、白ダシない」

「は?不味いの作んなよ」

「なら自分で作れや」

「ざけんな無理だ」

「威張るなよ」

仕方なく味の素と鰹ダシの粉末でカバーした。
ご飯と卵と醤油とダシ、胡椒と市販のキムチを一気にいれて炒めればすぐ出来上がるキムチ炒飯は面倒くさがりの我が家では重宝されている。
最後に胡麻油をほんの少し垂らして米をパラパラにしたら出来上がりだ、お手軽で美味いからマジ最高。

「美味い」

「あんがと」

「お前この後どっか行くの?」

「考え中。あ、おかわりあっからね」

「水くれ。あー…じゃあゲームしね?これ借りてきた」

「ほい水。マジか、やるに決まってんじゃん」

「おー、足引っ張んなよ。おかわり」

「お前がな。ちょっと待て食うの早ぇーよ」

そのあともグダグダ平和に過ごした私たちはなんやかんやで仲が良いらしい。
うへ、まあたまにウザいが優しいから好きだけど。
お腹が膨れたのかギスギスした雰囲気も全くなくなった兄貴がゲームをしながらチラチラこっちを見てきた。
なんだ、ゲームに集中しろ死ぬぞ。
気分で性格が変わるのはもはや遺伝である。

「…お前最近楽しそうだよな」

「気のせいじゃね」

「気のせいじゃねーな。オーラが違う」

「へー凄いねオーラ見えんだ、ウケる」

「間違えた雰囲気だ雰囲気。好きな奴でも出来た?氷帝金持ちなんだからどうせなら金持ち狙えよ」

「狙ったところで私ごときが引っ掛けれるわけ無いっしょ」

「なーに言ってんだお前、こんなカッコイイお兄様の妹だぜ?余裕だっつの。お前興味無さすぎっから彼氏もいねーんだよ、ガサツだし」

「調子こいて三股してるナルシストに言われたくないっす」

「寄ってくんだから仕方なくね」

「本命ぶっ細工だよなー」

「本命は性格重視なの、他は見た目だけのヤれる女」

「死ねし……あ、倒しちゃった」

「ちょっ、おま、大将倒すときは無双一緒にって言ったろ!」

「知らね」

今さらだがなんで三國無双の四借りてきてんだろ、古くね?
いやかなり楽しいから良いけどね。

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