dream | ナノ

「テメェどこ見て歩いてんだゴルァッ!」

ただいま絶賛、絡まれ中。
ちょっともう…面倒いんですけど。
携帯で音楽を聴きながらカラオケに向かって歩いていた私だが、平日の午前だというわりと街は空いてるだろう時間帯だというのになぜか人とぶつかり怒鳴り声をあげられていた。
他校の中学生か高校生だな、ぶっちゃけここの人皆老けてるから制服着ててもわかんない。
制服と学校の一致なんて出来ないし。
私ちゃんと謝ったんだけどねえ。
私は前見てたよ、前方不注意でよろけて私にぶつかってきたのお前だろうがゴルァ。
周りに友達だと思われる奴らも居るし、よろけた事実が恥ずかしくて私に当たってるのはわかる、確かにカッコ悪いもんねーあはは。
ウザくて笑えねえ。

「スミマセンデシター」

「それ謝ってねえだろ!とりあえずイヤホン取れやゴルァッ」

「スミマセンデシター」

「聞こえてないの?!」

ぶっちゃけ音楽と密閉型のイヤホンのせいでなにも聞こえないんだけど、私に絡んでる以外の周りに居たニイチャンたちが急に爆笑したためとりあえず外してみた。
え、なに。

「お前相手にされてねーじゃん!かっこわりぃ!」

「てかぶつかったのお前だよな、なに女の子に当たってんだよ」

「そーそー、可哀想じゃん。……不良っぽいけど可愛いっつーか美人じゃね?レベルたけーな……この時間にここ居んだからサボりっしょ?ヤローばっかでつまんなかったから一緒に遊ばね?」

なんか色々と鳥肌がたつ発言に寒気がした。
不良っぽいのはお前らだろ、ジャラジャラとシルバーアクセつけやがって。
あ、あれカッケーな……いやいやここでアクセに興味持ってどうする自分。

「なにナンパしてんだよ!女なんていらねーだろ!」

「ぶつかってその子に絡んだのお前だろ」

「ナンパはしてねえ!」

「俺がしてる。ねえねえ名前なんてーの?氷帝だよねその制服。中学?三年なら俺らとタメだよー」

中三なのかこいつら、見えねえ……面倒いんですけど。
今までの経験からいくと私にナンパしてくるような奴はただ女好きなだけで、今後慣れない内はなんか食べたい時とか奢ってくれる良いカモになるから正直どうしようか悩む。
慣れたら私の性格ゆえ女扱いされなくなり男友達のような関係になるのが難点だ、たまに猫被らなきゃいけないからそれはそれで面倒。
でも中学生だから奢ってもらうのもあれだしな……ヒトカラしたいから誘い乗るのはやめとこ。

「ぶつかってスミマセンデシター」

「…あ、ちょっ!」

走って逃げた。
ぶつかってきた男も既に私なんかどうでも良いのか、逆にぶつかったことによって周りに責められたから拗ねてるのかわからないがゲーセンゲーセンと騒いでたため逃げても問題ない、一応謝ったし。
他の奴らも死んだ目をしてると評判な私をナンパするくらいだから誰でも良いんだろうし、まあ大丈夫だろう。
少し走って、もう良いかという辺りでチラリと後ろを振り向けば学生らしき姿は消えていたのでとりあえず走る足を緩めて歩いた。
あー、走るとかダルいー疲れたーウザいー。
ゲーセン行くなら難癖とか寄り道せずに行けば良かったんだ、てか私をナンパする時点で頭おかしいあいつら、可哀想。
カラオケこっちにあるかな…ん?

「…あれ?」

ここどこだ。
周り見ないで走ってたせいか見覚えのない景色のなかに私は居た。
キョロキョロと周りを見渡してみても、知ってるところではないとわかる。
あらー、んー……まあ良いか。
まだ午前中だし。
午後になっても見覚えあるところが無かったら兄貴呼ぼう、無駄に外出してるから私よりはここら辺わかるはず。

「……ん?」

キョロキョロと周りを見渡していたら遠くに公園があるのを発見した。
大通りから繋がる少し狭い路地の奥、こじんまりとした公園が見えてちょっと興奮する。
なんか、こう、隠れ家的な。
カラオケ見つかりそうにないし…そういやこの時間なら補導されそうだから行くべきじゃないかも。
あー、学生ってメンドイ、私服で来れば良かった。
愚痴ぐちしながら公園に向かうため足を狭い路地に向ける。
広い公園よりも狭い方が好きだ、特に理由はないがなんかその方が落ち着く。
こういう所を通ると昔の中学生時代を思い出すため、少しだけ懐かしい気分になった。
中三の冬までは義務教育なのを良いことに学校にも行かず喧嘩三昧の日々、ここみたいな裏路地に引きずり込まれて生意気とか言いながら掴み掛かってきた女どもにリンチされかけたこともあるけど逆に返り討ちにしまくってた。
ちょっとでも筋トレすればすぐに筋肉がつく体質だったし、兄貴との喧嘩や昔から男相手にも普通に威張ってたからそれが理由で乱闘したりして普通よりは強かったしな…。
売られた喧嘩は買いまくってたし、自分から売りまくってた。
あの頃は若かったと、今なら思う。
教室の真ん中でウザかった男を片手で浮かせながら首を絞めたのをキッカケに中学時代のあだ名は番長だった、今は消し去りたい黒歴史の一つである。
普通じゃそんな力無いはずなんだけどあの時キレてたからな……人間頭に血が上ると想像以上の力が出るというのは本当だ。
高校受験をキッカケに大人しくなり、昔暴れすぎた反動か今ではすべてがダルいという体たらく。
もう一回言おう、あの頃は若かった。

「お」

路地を抜けるというところで、ドカッという音とグエッという声が聞こえた。
聞き覚えのある音だなーと思った瞬間、目の前で人が吹っ飛ぶ。
ボケッとしていたせいで反応は遅れたけれど、地面に転がって意識を飛ばしている男を見て目の前に集中することにした。
あー…喧嘩か?
盛大に吹っ飛んできたなこいつ。

「テメェふざけんじゃねえっ!」

「ぁあ゙?」

「ひぃっ」

「ビビってんな!あっちは一人だぞ、やっちまえゴルァッ!」

男が吹っ飛んできた方向に目をやれば、くわえタバコをしてる一人の男を複数人が凶器を片手に囲んでいる光景があった。
どこで拾ったのか鉄パイプやらバットやら凶器の種類は様々。
ナイフを持ってる奴も居て、真ん中で佇んでタバコを吹かしてる奴は何をしでかしたんだと思わずにはいられない状況だ。
一人のリーダー各っぽい奴が命令した途端、距離をつめてた周りの凶器集団がニコチン男に一斉に飛びかかる。
あーどうなることやら、と眺めていたらダルそうにタバコを吸っていたそいつはやっと動き出した。
ゴルァッ!バキィッ!ウルァッ!ゴフッ!と色んな音をたてながら次々と凶器集団が沈んでいく。
うわ…清々しいくらいあいつ強いなー。
まあ凶器なきゃ挑めない時点で勝負決まってるよねー。
公園の前で繰り広げられるそれに通り抜けるのも面倒なので、袋からブラックサンダーを取って食べながら終わるのを待つことにした。
生憎とこんな状況でも恐怖に震えるといった神経は今さら持ち合わせてない。
喧嘩も一つの青春だよな!
あ、なら私青春謳歌してたわ。

「…っ」

モグモグと口を動かしてブラックサンダーを味わっていたら、息を詰めた音が聞こえたのでそちらを見る。
ニコチン男の頬の部分が線のように赤くなっているのと、ナイフを持った男がニヤリと笑っているのを見付けて一発食らっちゃったんだなーと呑気に思った。
喧嘩に傷は付き物だもんねー。
にしても、ナイフか。
物騒だこと。

「テメェは死ね」

あ、ニコチン男キレた。
ニコチン男の凄みに気圧されたのか、ナイフ男はジリジリと後ずさり顔を青ざめさせていた。
今更だが凶器集団は既にナイフ男しか立ってないことに気付く。
あ、もうこれ通れるじゃん。
少し遠巻きにしながら彼らを越えて公園に向かえば、背後から絶叫と鈍い打撃音が聞こえて思わず呟いた。

「試合終了ー」

白い学ランに銀髪ってあれ亜久津仁だよな…怪物半端ねぇ。

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