dream | ナノ

逐一自分で考えて説明するのも面倒いから、とりあえず彼の心配事だけ取り除いた言葉だけを言ってあとは質疑応答という形にしてもらった。
その方が簡単だし。
他のトリップした人に興味津々なのか男マネは瞳をキラキラとさせていた。
まあ私も興味あるし、ダルいけど仕方ない。

「家あんの?てか戸籍とかどうなんだ?」

「家はなんか知んないけど…あー、なんて言えば良いんだこれ……とりあえず家族も家も戸籍もある」

「家族も?」

「なんかこっちで普通に暮らしてた形跡あるよ、写真とか」

「へー……変なの。俺も景吾の父親の弟の息子っつー形で転生したからな、家や戸籍どころか金や権力までバッチリだ」

「分家のくせに」

羨ましいなオイ。
妬みですごめんなさい。

「んなの俺は気にしねー。よし、あとはな……あ、景吾狙いなんだろ、どうすんだ?あいつああ見えてプライベートじゃかなりのアホだぜー」

「サンデー事件とか知ってるからわかってる。てかキング狙いとか私がしたところで高が知れてるから何もしないし。思い付きで媚売っただけだから忘れて。あのときの自分思い出しただけでもう……おえっ」

「やっぱ思い付きかよー。だよな、今のお前と比較すっとあり得ねえよなあれ……ブハッ」

「記憶を消す」

「ちょっ!痛い!ごめんなさいっ!」

人の顔を見ながら思いきり噴き出しやがったからこちらも思いきり殴ってやった。
年上?そんなの知るか。
他人を敬うことをしない私は欠陥人間なのかもしれない。
だからどうした、って感じだけど。
なんかすごい馴染んでる感が否めない。
彼も自分の考えが杞憂に終わったことが嬉しいのかさっきより気が軽そうだった。

「でも景吾良い奴だぜ、オススメ」

「彼にとって私は興味のない雌猫だから無理だと思うよ、私にとってもキングはお笑い提供マシーンだし」

「ブハッ、マシーンとかっ!……一応俺の従兄弟なんだけど」

「…あ、ごめん」

キングは彼にとって大切な家族なのだということを忘れてた。
噴き出したくせに…いや私が悪いか。
さっきの、テニス部に問題がなければ良いという彼の発言からして、家族であるキングの邪魔は許さないとかそんな感じだと私は解釈してる。
転生したということは幼い頃から一緒に成長したんだろう、私とは違い彼等をちゃんとした一人の人間として過ごしてるのがこの接触でなんとなくわかった。
私も一人の人間として見てるつもりはあるけど、やっぱり笑いを提供してもらうという時点でキャラとして彼らを見てるというのは否めない。
まああれだ、男マネは十四年間こっちいたんだから仕方ないよな、私一ヶ月も経ってねぇし。
紙面で彼らを見てるわけじゃないから私もそのうちキャラだということは忘れるだろ。

「E組の転校生は不良っぽくてちょっと怖いって聞いてたけどあれだな、お前大抵ダルいだけだな」

「当たりー、てかなにその噂。…ぶっちゃけ中学の授業なんてやる気起きなくね?」

「まあなー、氷帝はレベル高いし選択でドイツ語とかやるけど基礎だしな。俺中卒で鳶やってたけどこっちに生まれてから英才教育されたし。勉強する気は起きねぇ」

「ブフッ、鳶職が英才教育!」

「人生どうなっかわかんねぇよなー」

本当にわかんないもんだ。
聞けば、なんでも彼は初等部の半ば辺りから氷帝に通っているらしく、皆とは昔馴染みだし頭もそこそこ良いらしい。
トリップを体験した十四年先輩だ、仲良くしとこう。

「あんたなんでマネージャーなったの?選手やれば良いのに」

「ばっかお前、テニプリで選手なんてなんつー死亡フラグ。てかあいつら居る限り俺に陽の目が当たんのはあり得ねえから無駄な努力しないっつーことで」

「ああ、確かに」

「俺運動嫌いじゃねーけど走んの嫌いでさー、絶対走り込みあんじゃん?無理無理。マネージャーいねぇから部活入んないならマネやれって景吾に言われたのもあるしな。俺男だから力仕事も女よか出来るし」

「結構な重労働だもんねぇ」

「まあ間近で原作拝みたいっつー野次馬根性もあるしな、だから部活引っ掻き回すような奴は要らねーんだよ」

俺の楽しみ無くなる、とか言った奴にちょっとずっこけた。
そんな理由かい。
え、ちょっ、私の関心返して。

「あ、勘違いすんなよ?あいつら支えんのはそれだけじゃねーから」

「…ですよねー」

私がガクンっとずっこけた意味をちゃんと理解してくれたらしい。
あ、良かった、愉快犯は私だけで充分だようん。

そのあとも結構な時間しゃべっていたけど、二限が終わる鐘が聞こえたところでお開きにした。
もしもなんか変化があったときのために連絡先も交換して私はあっさり部室から出る。
トリップ仲間の親近感だろう、疑いも晴れたことだしなんだかんだで親切なお兄さん風を出した彼は面白い人だった。
誰かに恋したら全力で応援すっからな!と言われたってことは私は彼の安全配に入ったと考えて良さそうだ、適当に年下興味ないって言ったけどあれ絶対本気にしてない。
あいつら年下に見えねえだろと言われてなにも言えなくなったのが問題だったか……いやでもあいつらスーツ着れば二十代半ばにしか見れない自信あるからしょうがないよな、高校行ったらどんだけ老けるんだろ怖いわー。
とりあえず円満に終わって良かった、金と権力使って追い出されたら一生陽を拝めない暮らしになりそうだったし……こえー。

ブラブラ歩きながら脳内で微妙に恐れたり笑ったりしていたらポケットにある携帯のバイブがなった。
音楽はボカロでリンネのサビ、某嘔吐物様である。
大好きだけど携帯が鳴るたび若干ビビるからちょっと変えようか検討中だ。

「はいはーい、なんか用?」

『名前なんで教室こないのー?!』

「置いてった癖になに言ってんだ」

『ちゃんと言ったのに跡部君と話してて聞いてなかった名前が悪いんだもんねー!私の分のブラックサンダーは取ったけど気付いてた?』

え?…あ、ほんとだ。
まあ雪の分だから良いけど。
てか跡部君と?……ああ、あの男マネ跡部だっけか。
ややこしいなまったく。

「歯医者ならあんま食べんなよ」

『……うん!』

「もう食ったんだな」

『えへ。それよりも今どこ居るのー?寂しいから早く来てー』

「……あ」

学校を出て帰り道を歩いていることに気付いて声を漏らした。
あれ、なんでこっち来た自分。
まあでも今さら授業受ける気しないし…ここまで来たなら良いや。

「私今日サボッからハヤピーに言っといてー」

『えええええっ!ズルい!私も』

「却下ー、じゃな」

通話を切って携帯にイヤホンを取り付ける。
わめいてたけど担任のハヤピーへの言伝は頼んだし大丈夫だろ、雪はあんなこと言いながらも一人で今からサボるようなことは出来ない子だから。
耳にイヤホンをはめて流れてくる音楽に集中することにした。
ランダム設定の一番最初はやっぱりボカロで、出だしが行方不明と評判な深海少女が流れ出す。
歌詞が好きだ、繊細な女の子の心情はリアルにあるものだと思う。
今の私は全く違うけど、違うからこそ惹かれるものがあるんだろう。

「んー、どこ行こ」

歌いたい気分になってきた。
ヒトカラでもするかな。

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