dream | ナノ


物凄く疲れた。一月ぶりに帰った我が家、事実上私の家ではないのだけれど私の家になっているヴァリアー本部の一室は、やっぱり長く住んでいることはあって何処よりも安心する唯一の癒し処だ。長期になってしまった任務は此処数年無かったものだから気を張りすぎて今はもうぐだぐだ。疲れた。一ヵ月で帰れたのも奇跡だったと私は個人的に思っている。大体私は壊滅とかそういう特攻的な任務が得意なわけであって潜入とか情報収集とかは専門外なのに。ああ、独立部隊じゃなくて特殊部隊になってからは殺し以外が増えて困りものだ。穏健派な九代目直属の部隊としては前みたいに好き勝手出来ない。沢田に楯突いたときの昔のツケも未だ払わされてるんだし。でもまだ六年しか経ってないんだよなあ……いや、でも私ももう若くないな、六年って恐ろしい。

「……寝よ」

何だかどうでも良いことを考えてたら眠くなってきた。やっぱベッドに転がってる時点でダメだな、眠くなるに決まってる。ボスへの報告書も何もかも何時間か前に終わったしもう寝ても良いよね、てか寝なきゃ拷問だよねこれ。よし、寝よう……でも苦しいからコート脱がなきゃ。

「ふあー、眠ー……ん?」

立ち上がるナイスタイミングでベッド脇の机の上に置いてた携帯の着メロが部屋に響き渡った。この着メロは一人にしか設定していないので画面なんか見なくても誰なのかは容易に分かる。でも、なんだかなあ。私今眠いのに。えー、なにこの厭な予感。内線じゃなくてわざわざ携帯というところが尚更、ね。私が出るまで永遠に鳴らし続ける人だから無視し続けるのは無理だけど。

「はいはーい?」

『遅え。俺の部屋に来い』

「えー、私ねむ……切りやがった」

何なんだいきなり。あれ、報告書ミスってたかな?でも俺の部屋ってことは執務室じゃないからプライベートにカモーンということか。えー、なんで……いや確かに呼んでくれるのは嬉しいけど明日にしてくんないかな……本当、眠いんだよな……。

「…はあ、行くか」

いくら眠くてもボスの言葉に逆らっちゃいけない。何故かって?彼が拗ねて後々面倒臭くなるからだよ。前なんてちょーっと転けそうになったところスクアーロに助けられただけで一日中ブスーッとしちゃって。抱き合ってるように見えたからって、ねえ?あの時は私以外の扱いが今までで一番やばかったな。果てにはただワイン持ってきただけのメイドにまで瓶振り下ろして気絶させたり。あの女の人凄いよな、あんな扱いされたのに今だに辞めるどころかボスの雑用受け持って。メイドのままじゃ勿体ない人材だ。まあ結構年みたいだから今からヴァリアーは無理だろうけど。

「…あ、やば」

いつのまにか十分過ぎてたので急ぐとしよう。まったく、前よりはかなり穏やかになったけどまだちょっと暴君だからなあの人。愛され過ぎも困りものだ。



ありえねえ、という言葉しか今は浮かんでこない。いつ何時も乱れることのない鼓動がありえないほど高鳴り続け、そしてまるで体全体が心臓のように脈打ち息が切れる。あいつ、あの女の仕業か。極自然に、普段通り執務中に紅茶を差し出してきた女の顔を思い浮べた。俺を射ぬく鋭い視線は何の感情を込めて向けているか知ってるが、生憎俺はあんな女眼中にねえ。そこらのメイドより不自然にびくつかず周りの世話をするため傍に居るのを許可していたが、まさかその果てにこんな企みが潜んでいたとは気付かなかった。普段と違う女の些か緊張した空気が不快になり追っ払ったが、なる程こんな自体に陥るとなら部屋に居させるべきだったと今になって思う。
そうしたら変化の凶兆が見られた時点で消し炭にしてやったというのに。
目的がどうであろうと、盛った時点でそれは俺への反逆と見なす。媚薬だろうが何だろうが、間接的にだろうと俺を操ろうなんざ何年経っても考えることすら烏滸がましい。クソが、腹が立つ。それに気付かず呑気に飲んでしまった自身でさえ不快だ。そして一番不快なのはやはり。

「…っ、ドカスがっ」

込み上げる欲求は抑えが効かねえから厄介だ。そして思い通りにならない体が自身ながら鬱陶しくてたまらない。術中に填まり不様に翻弄されんのもざまあねえが、一番不愉快なのはやはり意志に背いて疼く下半身。カスがっ、気持ちわりぃ!制御できない体を無理矢理動かし立ち上がる。こんな状態で書類仕事なんか出来るわけねぇだろ。ドカスが、ふざけんな。あの女次姿表したらかっ消してやる。此処が長ぇからって油断した。はっ、マジでざまぁねぇな。
執務室を出て直ぐ様携帯を取り出す。欲求が止まんねえんだ、だったら収まるまで発散すりゃ良い。あの女の処分は後からでも済む。今はんなことよりこっちが優先だ。コール音が響く中イライラが募る。クソが、早く出やがれっ。

『はいはーい?』

「遅え。俺の部屋に来い」

何か言い掛けたあいつの言葉も無視して通話を切る。不満そうな声出しやがって、久方ぶりに会うっつうのにんな反応か?イラつく。ふざけんな。俺の声が聞こえただけでもあいつは喜ぶべきだろ。俺がやたら気にしてるみてえじゃねえか、気持ちわりぃ。
寝室につきそれから五分間葛藤に襲われながらソファに身を沈めていたら控えめにドアが叩かれた。直ぐ様立ち上がり誰かも確認せずドアを開けて相手を引きずり込む。求めていた感触が得られて膨らむ欲が益々増幅した。

「ちょっ、ボス!いきなり何……いっ?!」

「うるせえ、大人しく抱かれろ」

抱き上げ早急にベッドに放り投げた。隊服のままだった名前に脱がせるのが面倒だと些か眉を顰める。意味が分からないと表情に出し、素早く逃げ出そうとした名前の腕をある限りの力で抑えつけた。

「痛っ、痛い痛いっ!急に何なの意味分かんないっ」

「ヤりてえだけだ」

「なんでっ?!」

「なんで?てめぇの男一ヵ月もほったらかしといてよくそんな口叩けるな」

「じゃあ仕事押しつけるなよ」

「うるせえ黙れ」

暴れようとするが流石に長期任務で疲れてるのか抵抗が弱い。はっ、好都合だ。こいつもどうせ嫌がるのは始めだけ、途中からは夢中になるくせによ。何時ものこと、何年お前だけを抱いてると思ってる。

「俺の欲求を収めんのはお前しか居ねえだろ?名前」

息を詰まらせ黙り込んだ名前、それを見て俺の口角が上がった。

「……眠いのにー」

首に回された腕を了承ととって、その首筋に唇を落とした。眠いだあ?安心しろ。

「んな余裕無くしてやるよ」

てめえは黙って俺に溺れてりゃいい。



被害者Aの実態

2009.3.4


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