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Pi-Pi-Pi-.......



重い目蓋を必死に押し開けようと鳴り響く機械音。モゾモゾと気だるい身体を動かして、手を伸ばす。……届かない。机の上のそれは、あと数センチほど奥で、変わらず鳴り響いている。止めるには一度身体を起こさないといけない。でもそれは、酷く、億劫、だ。



(…………まぁ、いっか)



どうせそのうち止まるしと、頭まで布団被る。そうすれば音はあまり聞こえない。多少息苦しい気がするけれど、一度寝てしまえばそれもわからなくなるだろう。窒息するほどのことじゃない。嗚呼、あったかい。布団の温かさに力が抜け、再び意識と身体が沈んでいく感覚。



Pi-Pi-Pi-『ピピピピピピピッ』Pi-『ピピピピピピッ』



もう少しで眠れる、というときに始まった高音二重奏。しかも、ひとつは布団の中。それもすぐ近くでなっている。うるさい。発信源を探れば、充電器に繋がれたままのケータイが、チカチカと着信を知らせていた。こんな時間に誰だ。いや誰か、なんて大体わかるけどわかりたくないと、いうのが正しい。もし予想通りの人物なら、あと30分はこの音が鳴り止まない。しかもそのあとは大量のメールが送られてくる。はっきり言って怖い。二度と経験したくはない。



(留守電に、しとけば……よかった…)



開いたケータイには、見慣れた11ケタの番号と、予想通りの二文字が表示されていて泣きたくなった。



「……………はい」

『おっ!今日は早かったな』

「……朝からなんなんですか、部長」

『その様子だと忘れてたようだな!今日から合気道部は朝練だぞ!!』

「……一応覚えてましたけどそういう気分じゃないので、」

『行かないってのは、無しだからな』

「ちょっ朝練って自由参加…」

『おいおい期待のルーキーが何言ってんだァ?お前の演武なら、全国大会だって夢じゃないんだからなっ!早く準備して来いよ?多少の遅刻は見逃してやるから!あと目覚ましうるさいぞ?ちゃんと切っとけよな、じゃっ!!』

「ええぇぇえちょっと待ってく……って切れてるし」



遅刻を見逃す前に、強制参加を取り消して欲しい。切実に。しかも目覚ましを止めろとは、そのために身体を起こさなければならないことを知っているんだろうか。だとしたらエスパーかストーカーのどっちかだ。どちらとも、あの部活ラブの部長に限って、有り得ないけれど。



Pi-Pi-Pi-......

(………起きよう…)



部長のせいで二度寝する気分にもなれない。朝からあのハイテンションはキツイ。重たい身体を起こし、言われた通り目覚ましを止める。時刻は6時15分。朝練は6時30分からだから、急げば20分くらいの遅刻ですみそうだ。この時間に電話をかけたということは、部長はほうっておけば私が部活に来ないであろうことを予測していたらしい。あのやろう、練習で少し強めに腕捻ってやる。無理やり起こされたということで、私の機嫌は45°ほど斜めになっている上に、半強制で部活に参加するのだ。このくらいの報復は許されるだろう。これからの予定を決め、私は着替えるべく制服に手を伸ばした。



未だにはっきりしない頭を支えながら、洗面台に向かう。顔を洗って、歯を磨いて、髪は手首に付けっぱなしにしているヘアゴムで髪を1つにまとめて結い上げる。そうすることで、背中を覆っていた髪はちょうどうなじくらいの長さになり、首元が一気に涼しくなった。気になる寝癖を手櫛で整えつつ、キッチンへ向かう。冷蔵庫を開ければ、卵が2つ。牛乳とスポーツドリンク。野菜室にはキャベツとにんじんと……………いや、メンドクサイ。コンビニで何か買おう。寝室に戻って鞄と道着を掴んで、ケータイにイヤホンをつけてポケットに突っ込んだら、次は戸締りの確認。窓の鍵が掛かっているか確認して、カーテンを閉める。時計を見れば丁度6時30分。ここから学校まで徒歩で10分も掛からないから、予想より早く着けそうだ。



「いってきます」






いつも通り、応えるのは沈黙だけだった。







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