初めてあの悪魔達に遭遇してから十数日。そして二回目に遭遇してからまた数日が経過した。(遊園地は見事にトラウマになった)後日カツミレさんに聞いた話によると彼女はあの悪魔達と幼馴染という間柄らしく、よく互いの仕事の合間を縫って会っているそうだ。その日から私の行動範囲から遊園地は完全に削除された。ライモンシティに出歩けない日も近いなと、自虐気味に思った。嗚呼、せっかく安定した職場だったカフェも、最近の私の挙動不審を見かねてか、3日間のお休みを言い渡されてしまった。クビでないだけマシだが。その事を親に伝えたらちょうどいいから帰って来なさいとのお達しが来たのだ。ライモンシティはもはやいつどこで悪魔に遭遇してもおかしくない危険な場所と化していたので、実家に帰るのは心を休めるいい機会だと思った私は、二つ返事で応えた。嗚呼、思えばここでちゃんと確認して返事をしていればこんなことにはならなかったかもしれない。だがまさか、まさか”空を飛ぶ”担当であるウォーグルさんが風邪で倒れてしまうとは……!夢にも思わないだろう!お前、昨日久々に空飛べる!って元気だったじゃないか!



「……と、いう訳で帰れなくなりました…」

「はぁ?何言ってんのあんた。こっちはナナシを迎えるためにご馳走用意してんだから早く帰って来なさい」

「いや、だから移動手段が……」

「”空を飛ぶ”だけが移動手段じゃないでしょ!今から乗れば昼ご飯には間に合うから早く来なさいよ!」

「ええええぇぇぇええ!!待って母さんそれって………って切れてる!」



これは数十分前の会話だ。察しのいい人は今私がどこにいるかわかっただろう。そう……………カナワタウン行きの駅のホームだ。嗚呼!ライモンシティにいるだけで危険だと言うのに、何故、悪魔達の本拠地に自ら乗り込んでいるんだ私は!全ては母親に逆らえない私の意志の弱さが原因です。分かりきった事でした。上着のチャックを上まで閉め、深く被った帽子の上に更にフードも被っている私は、さぞ不審者に見えるだろうが、他人の視線なんか知ったこっちゃない。私は、彼らに見つかる訳にはいかないのだ。もし見つかってしまったら……想像しただけで身の毛が弥立ち、手の震えが止まらない。………今回は朝ご飯を食べなかったので吐き気はかろうじてない。不幸中の幸いだ。こんな幸い、望んでないけど。さて、カナワタウン行きの車両が到着するまであと5分。さっきから時計を見ても全然時間が進んでいないように感じるのは気のせいか。それとも遠い地方にいると聞くセレビィの悪戯か、ディアルガの苛めか。心臓だけが無駄に早く進む。生き物というものは一生に動く心臓の回数が決まっているのだ。つまり私の寿命は着実に削られていっているという事である。落ち着け。深呼吸しろ。時間はまだ4分45秒もあるんだ。深く息を吸う為に、いつの間にか俯いていた顔を上げる。吸おうとしたところで変に咽せたように息が止まってしまった。視界に黒が過った気がしたのだ。あの悪魔の片割れの持つ黒を。いや、そんな馬鹿な。ここはサブウェイと言ってもバトルトレインではなく通常車両。あの黒がいるはずがないのだ。見間違い、見間違いだ!実家にいるブラッキーと自分の黒い鞄を見間違えたときと同じ見間違いに違いない。そうに違いない!



「ナナシ様………?」



嗚呼、どうやら私は時間の神だけでなく、世界の創造主にまで嫌われているらしい。





道化恐怖症






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