「クダリ」

「どうしたの?ナナシ」

「クラウンとピエロの違いって知ってるかい?」



え、と驚いたような顔を浮かべるクダリに、やっぱり知らないんだな。と、少し笑う。その笑いが癇に障ったのか、驚きから不機嫌な顔に変わるのに、そう時間は掛からなかった。傍から見たら、只談笑しているように見えるのだろうな。どちらも、笑顔だから。



「クラウンもピエロもどちらも道化で、どちらもおどけ役さ。同じ道化でもピエロは特に馬鹿にされているという違いはあるが、もっと明確で視覚的な違いがあるんだよ」



なんだかわかる?と不機嫌な彼に問いかければ、答えが気になるのか唸りながら一生懸命考えている。と、言ってもバトル以外考えるのは苦手なクダリの事だ。すぐに答えを聞いてくるだろう。私はその少しの時間のうちに時間が経って少し温くなったコーヒーを飲む。一口飲み干せば、クダリが四肢をバタつかせて訴えてきた。



「うぅう〜!わかんない!ナナシ!答え何?」

「もう降参?」

「だってわかんない!」



「ねぇねぇ!早くおしえて!」と、迫るクダリを引き離し、ゆっくり深呼吸をする。願わくば、私の声が届きますように。



「ピエロはね。必ず涙のマークが顔に描いてあるんだ。それには馬鹿にされながら観客を笑わせているけど、心の底の悲しみが涙のマークとして表面に現れているそうだよ。ピエロはおどけて感情なんて偽者しかないように見えるけど、けしてそんなことはないんだ。悲しいんだ。辛いんだ。悔しいんだ。もどかしいんだ。そんな感情が、涙となって現れるんだ。だからねクダリ、」



それ以上先は、彼の肩に吸い込まれて言えなかった。何時もの捨て身タックルからのしめつける、のコンボのような抱きつき方とは違う。縋るような、そんな抱きつき方。覆い被されるような体制のせいでクダリの顔は見えないが、たまに聞こえる鼻を啜る音や、震える肩から察するに、どうやら私の当初の目的は達成されたらしい。嗚呼、よかった。これでクダリを人に戻す事ができた。



「………ナナシ」

「んー?」

「もうしばらくこのままで、いい?」

「どうぞお好きに」



そう言えば抱きしめる腕が少しだけきつくなった。





道化の舞台裏






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