「やぁやぁ!クロコダイル君?ご機嫌は如何かな?」

「………てめェのおかげで最悪だ」

「それはそれは結構!」



そう言いながら「よく出来ました!」と、でも言うように手を鳴らした。馬鹿にしているのかこいつは。毎回、毎回胡散臭い笑顔を顔に貼り付けて、柵越しに話しかけてくるこいつは、インペルダウンの看守だ。凶暴な犯罪者が集まるこのインペルダウンの看守がこんな女で大丈夫なのだろうか。それもLEVEL6担当がこんな頭の緩そうなヤツとは……インペルダウンは余程人材に恵まれないらしい。昼飯を渡すと称してやってることは只のお喋り、昨日は用もないのに此処に来たはずだ。こんなサボり魔、俺なら即クビだ。そう言ってやると「君にクビにしてもらえるなら本望だよ!」なんて返してきやがった。何が本望だ。俺にそんな権限ないことはわかりきっているだろうに。此処で俺は只の囚人で、こいつは看守だ。相容れない存在だ。冷たい金属の柱に隔てられた、生きる世界の違う、人間だ。そう考えていると、目の前のナナシの顔に少し影が射した、気がした。と、言っても口元に張り付いた笑みはそのままだが。



「ねぇねぇ、クロコダイル君?」

「………なんだ」

「今私にはね、どうしても叶えたい願いがあるのだよ」

「へぇ…?」

「でもそれには色々な難関があってだね、どうにも叶いそうにないなのだよ」

「てめェみたいな馬鹿でも諦めると言う言葉は知っていたみたいだな」



ハッ!と鼻で笑いながら言ってやる。するとナナシはわかっていたかのように、ちょっと眉を下げて「手厳しいね」と両手を上げた。まるで、降参のポーズのようだ。どうやら本気で参っているらしい。傍若無人が人の形を象ったようなこいつを困らせるとは。少しだけ興味が湧いた。何故そんな弱みを俺に話すのか、も。



「んで?なんでそんな事俺に話す」

「いやね、君の協力があれば一縷の希望が見えるような気がしてね!」

「……何が望みだ?」







「君を此処から出してあげたい」





嗚呼、馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、どうやら救いようのない大馬鹿だったらしい。



「悪いが俺は協力出来ねェな」

「おやおや、どうしてだい?」



心底不思議そうに、残念そうに聞いてくるこいつはやっぱり馬鹿だ。なんでこんな簡単な事が思いつかない。貼り付けた笑みのせいで頭どころか視界が悪くなってんじゃねェだろうな。てめェの目には普段通りの俺に見えているのだろうか。俺からすれば無意識に口角が上がってしまって仕方ないというのに!



「シャバにお前以上の価値を感じないものでね」



ベリッと、張り付いた笑みが剥がれる音が聞こえた。
(見えたのは、)(林檎のような君の顔)





柵(シガラミ)越しの逢引






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