無駄な足掻きはやめて現状を現実として受け入れる事にしました。カガリです。だってもう20代だもん。そんな体力ないよ。シャトルラン10回で倒れるくらいはないと思う。ははっ!これ誰に言い訳してんだろうね。
「お客様お怪我はございませんか?申し訳ありません…」
「は、はい大丈夫です」
「ノボリ、お客様違う。カガリ!」
「カガリ様でございますか。わたくしはノボリと申します」
「あ、どうも…」
そう言って真っ黒な衣服に身を包んだ、ノボリさんを見上げる。……でかい。私がベッドに座っているから余計そう感じるのかもしれないが、それでもやっぱりでかい。190cmくらいあるんじゃないだろうか。おそらくベッドに凭れた状態のままのクダリさんも実は同じくらいの身長なんだろうな。双子だし。(さっき触れた手も、すごく大きかったなぁ……)あ、思い出すんじゃなかった。また顔に熱がっ!
「時にカガリ様、どうしてあのような場所にいきなり現れたのございますか?」
「え、あのような場所って…」
「……クダリ、何の説明もしなかったのですか…?」
「説明、ノボリの仕事!ぼくわかんない!」
その返答にノボリさんはハァーっと、深い溜め息を洩らした。心中お察しします……。その後のノボリさんの説明によると、私はマルチトレインの21両目(つまりサブマスのところ、しかも試合中)に落ちてきたらしい。まじ空気読め自分。しかもポケモンも攻撃が直撃したとか。よく生きてたな自分。そういえば、なんか岩とか迫ってきてた気がするよ。「お怪我は…」にはそれも含まれていたらしい。特に痛いところはないし、「大丈夫ですよ」と、返しておいた。(細かく言えば骨がまだ痛いが)状況は理解した。どうやら私はこの身ひとつでこちらへやってきたようだ。ゲーム内のセーブデータが残っているとは考え難い。あったとしても私じゃなくて、主人公に適用されているだろう。住所不定無職。今の私に代名詞をつけるとしたら、それだ。
「できれば、親御様にも謝罪を申し上げたいのですが…」
「え、いいですよ怪我ないですし、そもそも悪いのはこっちで…」
「そういう訳には参りません。カガリ様の命を危険に晒したのは確かなのですから」
「そうだよーカガリ!家どこなの?」
「家……」
その言葉に、私は俯いてしまう。ここでの私は住所不定無職。つまり家はない。たぶん、家族も、いない。が、彼等にそう言っても納得しないだろう。なんとなく、そう思った。どこか、カントーやジョウトと遠いところだと嘘をついても、すぐボロを出してしまいそうだ。なら………。
「?カガリ?」
「どうかしましたか?」
「わからない、んです……」
「え?」
「自分が、どこから来たとか…家とか…わからないんです」
言うと、胸が締め付けられた気がして、さらに顔を沈めた。……やっぱり、思っているのと言葉にするのは違うらしい。言葉にするのは苦手だ。言葉にすると、逃げられないような気がするのだ。一体何から逃げると言うのか。認める事への恐怖か、受け入れた事への罪悪感か。……………それはきっと両方だ。
「ない、んです……」
そう言って、私は哂った。
薄情者は、ただ哂う
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