カタカタとキーボードをタイプする音が妙に大きく聞こえる。キーボードの上で忙しなく動く鬼道の指には、指輪がついていなかった。

「指輪は?」
「んー」

不動は漫画を読むのに飽きてしまい、それを床にぽいと投げると先程から鬼道が向かい合っているパソコンを睨んだ。さっきから鬼道を独占しているパソコンを憎らしく思ったのだ。それに気付いたのか鬼道はエンターキーをタンッと叩いて椅子ごとくるりと振り返った。

「そう怒るなよ。指輪ならちゃんとある」
「当たり前じゃん、なくしてたら殺す」

鬼道は机に置いていた指輪を親指と人差し指で挟んで見せた。それから指輪の角度を変えたりして、キラキラする光の反射を楽しんだ。

「ソレちょっと貸して」

不動はリングを自分の指から抜いて鬼道に渡して、代わりに鬼道の指輪と交換した。そしてそれを嬉しそうに自分の指にはめると「ぶかぶかだ」と言って笑った。鬼道は逆に、不動の指輪は第一関節で入らなくなり、それを不満そうに見詰めていた。「…入らない」
「あは、だってこっちぶかぶかだし」

それから不動は指輪で遊ぶのをやめて、じっと鬼道を見詰めた。

「…なんで指輪つけてくんないの?」
「作業するのに邪魔になる」
「邪魔って……つけてよ、寂しいじゃん」

やけに真剣になった不動に鬼道はどきりとした。「寂しい」と言ったときの声がふるふると震えていて、泣いているのかとさえ思った。それからさっき邪魔と言った事を少し後悔した。

「すまない…ほら」

鬼道は指輪を返して自分のを受け取った。それを薬指にはめて、じっと不動を見下ろした。俯いていてその表情は見えないが、不動の小さな肩が情けなく震えていた。これはまずいと鬼道が本格的に慌てだした。

「ふど」
「…あははっバーカ、何焦ってんの?」

不動は突然けらけら笑いだした。

「演技か…?」
「えーうん、だって鬼道構ってくれなくて暇だったからさぁ。上手かっただろ?」

ぱっと上げて見せた顔はドヤ顔で、どうやらさっきの肩の震えは笑っていたかららしい。

「お前…」
「でも寂しかったのは本当だよ」
「……」

不動はさっき鬼道がしたみたいに指輪に光をあててキラキラと反射させてみせた。
「邪魔かもしんないけど、できればつけてほしいなーなんて。…かたっぽだけ指輪つけるなんて寂しいじゃん」
「そうだな、悪かった」

鬼道は指輪をつけて不動に手をつきだした。

「おそろいだ」

そう言って不動はやっと嬉しそうに笑った。








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