『四年後の今日に迎えにくるから』

あの日俺達は此処でひとつの約束をした。あれは俺も鬼道も20だった時の話だ。急に鬼道がイタリアに行くことになって、その時に日本に残ると言った俺に鬼道が「四年後の今日に迎えにくる」と約束をしてくれたのだ。この狭い俺の部屋の真ん中で、その時渡されたシルバーリングが指切りのときにカチンカチンと音をたてていたのをよく覚えている。
今ではこのシルバーリングもけっこう色んなところで擦れたりして光が鈍くなってしまっていた。カレンダーを見ると、確かに今日の日付に赤い丸がついていて、やっぱり今日鬼道が帰ってくるんだと改めて思った。
イタリアには美人が沢山いるから、誰か知らない女を好きになって向こうで暮らすとかそんな事になっていないかな。鬼道くん誘惑に弱いしなぁ。そもそも俺の家ちゃんと覚えてくれてるかなぁ。

もう部屋に射し込む光がオレンジ色になっていた。その部屋の真ん中でごろんと寝転がって、じっとその安っぽい板の扉が開くのを待っていた。ちらりと壁にかかったカレンダーに目をやる。絶対今日だ、間違いない。そう思ってまた数分したらカレンダーに目をやって…、さっきからこの行動を何度も繰り返している。壁に立て掛けた時計の秒針はびっくりするくらいゆっくりと進んでいるように見えた。
遅い遅い遅い、早く会いたい。もう俺は不安で不安で仕方なかった。本当に俺のこと忘れてたらどうしようとか、他に好きな人出来たらどうしようとか、事故にあってないかなとか、頭の中でそういう嫌な事ばかりがぐるぐる回っている。
帰ってきたときは笑って出迎えてくれよって鬼道くんに言われたのに、なんかもう既に泣きそうだ。
部屋を照らしていたオレンジはもう沈んで、暗くなりかけた空には星がチカチカと瞬いていた。電気をつけようという気にもなれないし、このまま寝てしまおうかな、なんて。目蓋を閉じたら見えるあの頃の鬼道。ねえ早く会いたいよ、早く早く早く。俺の胸はざわざわと騒ぎ立てていた。そうして暫くたった後のことだった。カツンカツンと表の廊下に人の足音がしたのは。
ふと立ち上がって、静かに扉の前に立った。ばくんばくんと胸が破裂寸前にまで高鳴る。それから、ガチャンと鍵の開いた音がした。鬼道くん、合鍵ちゃんと持っててくれたんだ。それからゆっくりと扉が開いて、その向こうに立っていた人物に思いっきり抱き着いた。

「おかえり鬼道くん」
「ただいま不動」

そうだ鬼道くんは約束は絶対守る奴だったのに、何を不安に思ってたんだろう。ちらりと視界の端で見えた鬼道くんの指輪も俺と同じくらい黒くくすんでいて、それが何故か嬉しかった。







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