女の子の指できらきら光る恋人の証。あれが俺も欲しかった。あれをつけて恋人と並んでいる女の子達が自分には少し眩しくて羨ましく思った。

「なんだ不動。好みの女でもいたのか?」
「ばーか。そんなんじゃねぇよ」

前の席に座っている男を軽く睨みつけた。源田は冗談だと言うと、温かいコーヒーが入ったティーカップに口づけた。俺と源田は今ファミレス店に来ている。今日は鬼道が用事で一人だったから源田を呼び出したのだ。源田とはちょくちょく連絡を取り合っていて、時々相談にのってくれたりする。カタンとグラスを置いた、源田の左薬指がきらりと光った。やっぱり俺にはその光が眩しくて、少しだけ顔を俯かせた。源田は残ったコーヒーを飲み干すと、そろそろ出ようかと言って伝票を掴んで立ち上がった。


「じゃあな」
「あぁ、またな」

店から出た途端に容赦なく冷たい風が不動に吹きつけて、ぷるりと身震いをした。そしてマフラーをもう一重巻くと、少し急ぎ足で歩き出す。あぁ、またこの季節がやってきた。鬼道と出会ったのは3年前、付き合ったのは2年前の丁度今ぐらいの冬だった。コートのポケットに手を突っ込んで、はぁと宙に息を吐く。出された息は白いもやに変わって、そのまま消えて無くなった。記念日まで、あと3日。


◇◆◇


その3日後はすぐにやってきた。鬼道からは何の連絡もないまま、ただただ時間だけが過ぎていく。いつか連絡がくるんじゃないかって携帯を常に側に置いていたが、特に何の変化も無く、気付いたらもう夕方の5時だった。きっと忘れているんだろう、それはそれでいいか。俺は鬼道にとってその程度なんだってことだろう。あーあ、なんかすっげーネガティブ嫌んなる。ベランダから入ってきたオレンジを遮るようにカーテンを閉めた、その時。
ヴーヴーと携帯が振動して、少しの期待を込めながら画面を見る。そこには『鬼道有人』の文字があって、どくどくと心臓が速くなった。通話ボタンを押して耳にあてると、ずっと聞きたかった鬼道の声が電話の向こうから聞こえてきた。

「なに…」
『今から家に来てくれないか』
「は…ちょ、」

ぷつんと切られた電話。とりあえず携帯と財布と鍵をポケットに突っ込んで下に落ちたままの上着を掴んで家を出ると、鬼道のマンションまで走った。ここから鬼道の家まではそう遠くないけど、早く会いたかった。マンションの前まで来ると鬼道が既に立っていて、こちらに気付くとふわりと笑って来てくれた。

「っ、風邪引いたらどうすんだよ!」
「お前なら走って来てくれると思ったんだ」

ばかだろと悪態をつくけど本当は待っていてくれたことが凄く嬉しかったりする。すっかり冷えきった鬼道の手を握ってエントランスに入った。


鬼道の部屋は凄く好きだ。清潔感があって落ち着く。そういえば、部屋に入ったの久しぶりかもしれない。黒い革のソファにぎしりと腰を落として口を開いた。

「…どうしたの?」
「今日、記念日だろ」
「…覚えてたんだ」
「当たり前だ。…今日はお前に渡したいものがあってな」

そう言って俺の左手をとった。どくんどくんと徐々に鼓動が速くなっていくのがなんだか怖くてぎゅっと瞑る。くすりと鬼道が笑ったのがわかったけど、そんな事に構ってられないほど心臓が煩い。

「目を開けろ」

恐る恐る目蓋を開けた。きらりと何かが光って、ゆっくりと左手に視線を落とす。きらりとした正体は、さっきまで無かった筈の薬指のシルバーのリング。一瞬呼吸をする事も忘れてシルバーリングをじっと見詰める。目頭が急に熱くなった。

「いつか渡そうと思ってたんだ。…でもお前何かに縛られるのは好きじゃないかと思ってな…」

顔を上げて口を開くと、言いたい事が次から次へと数珠繋ぎになってなかなか言葉になって出てこない。目の前が霞んでてよく見えないけど、多分鬼道笑ってる。

「嬉しい…か?」

こくん、と頷くと目に溜まっていた涙がぽろりと零れ落ちた。それからダムが決壊したみたいに次々に涙が零れる。ふるふると震える肩を温かい腕が優しく抱いてくれた。

「ずっと側に居てくれよ」
「っ、当たり前だろ…ばか」


部屋はすっかりオレンジの陽の光で染まっていた。ふと左手に視線を落とす。薬指のシルバーリングが光を受けて、きらきらと反射していた。








:)もえるようにひかる

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