すき、という一言はどうしてあそこまで甘美な響きを秘めているのだろうか。文字にしてしまえばたった二文字で終わるというのに。



もちろん、それは「隙」でも「空き」でもなく、所謂ラブとかライクの意味で変換されなければ何の意味も持たない。だから俺はあのとき何故南沢さんが真剣な顔をしていたのかが全くもって理解できなかったのだ。


「あー、寒っ」
「………」


あれから数日、俺と南沢さんはいつもと変わらない調子で帰路につく。いや、本当のことを言えば変わらないのは南沢さんだけであって、俺の頭と胸の中ではあのときの南沢さんの言葉がぐるんぐるんと旋回しっぱなしだった。ちら、と南沢さんを見上げる。「何だよ」ほらいつも通り俺を見下して。


南沢さんが今何を考えているのか、俺には見当もつかない。南沢さんはどうやら本当に俺のことが好きみたいで、あの日珍しく真剣な目をして確かにそう言った。でも、俺が南沢さんのことをどう思っているかは伝えていないから、南沢さんはわかっていない。それでも俺の側にいる。…南沢さんはもしかしなくても俺の返事を待っているんじゃないだろうか。

「…南沢、さん」


足を止めて、拳をぎゅっと握った。南沢さんも立ち止まる。言わなきゃ。言わなくちゃいけない。俺だけ本当の気持ちを言わないだなんてそんなの失礼だし不公平だ。「あ、の」唇が、震える。いや、ちょっと待てよ俺、よく考えてみろはっきり言って無理だ。南沢さんは真っ直ぐに俺を見つめている。…絶っ対、無理。恥ずかしすぎる。もし言ってしまったとしたら俺はその瞬間恥ずかしさで死ねる。心中でため息をついてから何でもないです、と口を開きかけた。


「倉間」


ひどく優しい声色が鼓膜を揺らした。相変わらず俺を視界に捉えたままの南沢さんの瞳が、まるで俺を責め立てているようで。「…き、です」「え?」ああやっぱりこの人のことが好きだ。馬鹿だな俺、全然無理なんかじゃねえよ。「あの、俺」目の前にいる人が愛しくて堪らない。言いたくて、仕方がない。だから、「アンタのこと、」早く、早く言葉に、


「バーカ」


コツ、という音と共に額に小さな衝撃が走った。叩かれたらしい。しかも罵声まで浴びせられた気がするのだが。「無理して言おうとしてんじゃねーよ」って、どういうことだ。
「は、はあ!?何を、」
「言われなくてもわかってることなんか聞く必要ないだろ」


さも当たり前のように言う南沢さんは、つまるところ俺の気持ちには勘づいていた、と。「当然だろ」驚愕とか羞恥とか、そんなものの前に俺を襲ったのは脱力感だった。考えが甘かった。確かに、南沢さんは確実に勝てると踏んだ賭けにしか乗らないタイプだ。もう長い付き合いになるというのにそんなことも忘れてしまっていたなんて、と自分が自分で腹立たしい気持ちを、視線に込めて南沢さんに送った。八つ当たりだとはわかっているが、どうにもやりきれない。


「お前が俺のことどれだけ好きかなんてバレバレなんだよ」
「なっ…、そんなわけ!」
「…お前は全くわかってないみたいだけど」



気が向いたから教えてやるよ、と近付いてきた南沢さんが俺の耳元で囁いた言葉は、今まで生きてきた中で最も甘くて優しくて、俺の胸を昂らせるには充分すぎるくらい魅惑的だった。つまりは例の二文字だった、ってそれだけの話なんだけど、さ。








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(いつの間に伝わってたんだか、)





幻想に咲く/津虎さんから




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