今日もいつも通り、先輩と一緒に帰っていた。
そう、いつも通り。

先輩に嫌われる覚悟でした人生初の告白。それがまさか受け入れられて、こうして晴れて付き合うことができたのだが、
「…南沢さん、うちんち寄ってきませんか」
「なんでだよ」
「いや、特に意味は」
「…じゃあ行かねぇ」

何も…何も変わらない。
付き合うってもっといちゃいちゃとかしねぇの!?…そう思ってるのって俺だけなのか!?
相変わらず冷たい、というか何を考えているのかさえ分からない先輩に、自然とため息が出た。
─すると、ふと視界に白いものが見えた。正確には日に焼けてない南沢さんの腕で、自分とは正反対なその白すぎる手にしばらく見惚れてしまった。
…付き合ってから、キスどころか手も繋いだことがない事に気づき、少し焦る。
あのエロみ沢の事だ。どうせキスどころかそれ以上だってやってそうなのに、なんで俺には何にもしてこないんだよ…!いや、男だからか…?透き通るような白い手から目を離し、ちらりと横目で先輩を見る。
先輩は"いつも通り"の無表情。これじゃあ俺が一人で喜んでるみたいにじゃないか。
くそ…っくそくそくそくそ!!
手ぐらい握って帰りたい、恋人らしいことがしたい…そんな事が頭の中をぐるぐるし始める。
俺はぎゅっと目を閉じると、思い切って南沢さんの手の甲にちょん、と触れた。その瞬間南沢さんがぴくりと動いたのを感じ、少し距離を離す。
手を、繋ぎたい。…その時の俺は少し怒っていたのかもしれない。
結果的にはそれを数回、繰り返す事になった。
手が震えて上手く握ることができない。…手なんかがしりと握ってしまえばいいのに、と俺の中で声がするが、思うのと実際に行動するのは別だ。次こそは、絶対、


「…っはは」
その時、南沢さんが少しばかり笑った。それはいつもの馬鹿にするようなものではなく、堪えきれなくて漏れてしまった笑い声で、俺は驚いて手を引っ込める。
…気づかれるとは思った。というか気づくよな普通。どうしたんですか、なんて聞けない俺は固まったまま南沢さんの様子をうかがっていた。

「…みな、」
「…げほん、ごめん何でもない」

あー…さみぃなぁ。

そう(棒読みで)言った先輩に心臓が跳び跳ねた。
ここここここれは…!!
俺はもう半分自棄になり南沢さんの手をがしりと、そりゃあもう勢いよく握ってやった。
それにさすがの南沢さんも驚いたようでうわ、と小さく声を上げる。

「みっみみ南沢さん!!」
「…はい?」
「俺、南沢さんと手が、繋ぎたい…で…す」
爆発するんじゃないかってぐらい熱いのを我慢して、俺は南沢さんを見上げた。

「…もう繋いでんじゃん」
そう言った南沢さんは、笑いと驚きが混ざったような顔をしていて、この人がこんな顔するなんて初めて見たかもなんて思う。
─その顔を凝視していた俺に、次の瞬間南沢さんはぷっと吹き出した。そのまま笑いだした南沢さんに、次はこっちが驚く番だった。
…声をかけようか迷っていたところ、南沢さんが俺を覗き込むように見てきたものだから俺は顔を背けた。特にどうとかってことじゃなくて、単ににやけながら真っ赤になってるであろう顔を見られたくなかっただけだ。
繋いだ手が熱くて、その熱が身体中にまでまわる。

「やっぱお前んち寄ってこー」
「…え、」

南沢さんは平然と、まるでそれが普通だろとでも言いそうな顔でとんでもない事を言った。いや、最初に誘ったのは俺だけど…。
握っていた手が少し動いて指を組まれた。いわゆる恋人繋ぎってやつをされて、俺考えていた細かいことを全部放り投げた。


「…先輩といると、細かいことなんてどうでもよくなるんすよね」
「それくらい夢中ってこと?」
「…………ひみつ」






万華鏡/つばめさんから




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