年齢操作で20×19。一緒に住んでる。
いろいろ造ってる。







…今日もまた鬼道クンは甘ったるい香水の匂いをつけて帰ってくるんだ。

そもそも帰ってくるかどうかもわからない。
鬼道クンの浮気性も酷すぎる。
毎回毎回違う匂いをつけて帰ってきて。
しかもいつも0時は普通に回ってるし。

(ちょっとぐらい構ってくれよ…)

昔は独りでも全然寂しくなかったのに。
今は独りが辛いんだよ。

「ばーか」


なんかテレビも飽きてきて、プツンと消した。
チッチッ…と時計の秒針の音がやけに大きく聞こえた。
ふと目をやると1時。

「これはもう帰ってこないな」

そろそろ寝るか。

飲んでいたビールの缶もそのままにして
電気を消しベッドに沈んだ。








ピピピッと無機質な音が鳴って目を覚ました。
枕元から携帯をとってアラームを消す。

「……?」

机の上の缶がない。
昨日はそのままにして寝たのに。

もしかして……

パタパタとキッチンに向かった。
コーヒーのいい匂いがする。
「鬼道クン?」
「おはよう不動」

キッチンの椅子には不動クンがいた。
昨日帰ってきたんだ…

「缶、片付けてくれたんだ…?」
「あぁ…ちゃんと捨てろよ」
「ごめん、ありがとう」

ぽすんと椅子に座った。
暫くボーとしていると目の前にバターを塗られたトーストとコーヒーが置かれた。
「ん、ありがと」
鬼道は立ち上がって皿をシンクに置くと洗面所のほうに行ってしまった。
(いつもより早いな)
夜は一緒にいられないぶん朝は少しでも長くいたいから早起きしてるのに。

ふぅ、と溜め息をついてもさもさとトーストを口に詰め込んだ。

鬼道はもう鞄を持って靴を履こうとしていた。
「…もう行くんだ?」
「あぁ、今日は早いんだ」
「いってらっしゃい」

暫くして、パタンと扉が閉まる音が聞こえた。

ああ今から長い長い1日が始まる…
なんてことは俺にはもう限界だった。



(もう耐えきれねぇし。)



食器を洗って歯を磨いた。携帯を開いて源田の名前を探して通話ボタンを押した。

「あ、源田ー久しぶり」
『不動!!どうしたんだ?珍しい…』
「今日会えないかなーとか」
『急に…2時ぐらいからなら大丈夫だぞ』 「おーわかった。2時にお前ん家行く」
『じゃあ後でな』

カチ、と電源ボタンを押して携帯を閉じた。
(2時か……)

夜のぶんもあるし、2時まで寝るか。

ふぁ…と欠伸をひとつし、ベッドに沈み込んだ。







「んー…」

ぐぐ…と腕を伸ばして時計を見やった。
1時半…
源田の家までは少し遠い。
もう出ようか。

すくっと立ち上がって、落ちていたパーカーに腕を通す。
そしてベッドの上の携帯を掴むと玄関に向かった。
ガチャンと鍵をかけてエレベーターのボタンを押す。
暫くしたら扉が開いてそれに乗り込んだ。


(久々に外歩いたかも)

春の暖かい空気が心地好かった。
上は綺麗な青空が広がっていて、時々白い雲があるくらいだ。
着ていたパーカーの袖を捲って小走りに源田の家に向かった。


表札が入っていないアパートの扉のベルを鳴らした。
ピン、と音が鳴ってだいたい10後ぐらいに源田が出てきた。
「…思ったより早かったぞ」「そうか?」
「ほら入れよ」

おじゃましまーすと一応言って靴を脱いだ。
部屋は綺麗だが部屋が狭いせいか置かれている棚とかが窮屈に見える。
「お前ん家のほうが広いだろうが。
なんでこんな狭っ苦しいところに…」
「まぁなんとなく、な。
ところで佐久間はいないのか?」
「あぁ、ちょっと前に買い物に出掛けたから多分もう少しで帰ってくる…」
「ただいまーってあれ、客?」
ガチャとノブが回った音がして佐久間の声が聞こえた。
「よ、」
「不動じゃないか!久しぶり!」
久々に会った友人の顔を見て佐久間はとても嬉しそうだ。
「鬼道は…来てないのか」
「鬼道クンは仕事」
「ところでどうしたんだ急に…」
「なんとなくだってよ」
「そうなのか」

そして久々に喋った3人はすごく盛り上がった。
「鬼道がいればもっと面白いのに」と
何回か佐久間が呟いて、不動はその度に苦笑いをした。
そして楽しい時間はあっという間に過ぎていって気が付けば夜の8時半だった。

「そろそろ帰るわ」
よいしょと不動は立ち上がった。
そうか、と言って玄関まで見送りに来てくれた。「ありがと、じゃーな」
「今日は楽しかったな!また来いよー」
「じゃーな不動ー」

不動の背後でバタンと扉が閉まる音が聞こえた。
鍵もちゃんとしろよな、と苦笑しながら階段を降りて家とは別の方向へ向かった。

夜中でも賑やかで煩い通り。
右の路地に入るとホテル街がある。
そこでじっと待っていると声がかけられた。
オジサンが買ってあげる、いくらがいい?と言われた。

「5万」

鬼道クンが浮気ばっかりするから悪い。

その日俺は久しぶりにオッサンに身体を売った。




とぼとぼと暗い道を家に向かって歩いている。
右のポケットには携帯と鍵。
左のポケットには5枚の札が入っていた。
最近は鬼道クンとヤッていなかったせいかすぐにイッた。
オヤジは何度も何度も「可愛い」と言って優しく抱いてくれた。

抱かれている間ずっと鬼道ちゃんのことを考えていた。
鬼道クンは今俺がオッサンとヤッてるなんて考えもしないだろうな。
自分は好き勝手しやがって。
俺がいつも1人家で寂しがってる事なんか知らねえだろ?
鎖骨にはオッサンに頼んでつけてもらった紅い鬱血痕がある。

これは鬼道クンへの当て付けの浮気。

「……?」

部屋に灯りがついている。
鬼道くん今日は早かったんだな。

マンションのエントランスに入って鍵を開けた。
エレベーターのボタンを押して扉が開くのを待つ。
やがて降りてきた箱に乗って6のボタンを押した。

6階についた。
箱から降りて家のドアのノブを回す。
「ただいまー」
部屋の向こうから鬼道くんがゆっくり歩いてきた。
鬼道くんの周りの空気がピリピリしていて明らかに怒っている。
「…なんで怒ってんの?」
靴を脱いで鬼道くんの前に立った。
「どこに行ってた」
紅い瞳が不動を捉えた。
「んー…浮気?」
クッと笑って肩を揺らした。
「ふざけるな」
ガッと胸ぐらを掴む。
不動の白くて綺麗な肌に紅い痕がついているのがチラと見えた。
「き、さま…」
「鬼道くんだってしてる癖に」
鬼道が何か言おうとしたところを不動が遮った。
「今日は甘ったるーいバニラの香水?」
「ッ…」
「気付いてないとでも思ったか?毎回毎回違う匂いつけてきてさぁ…」

鬼道はずっと黙ったままだ。
そのことが不動は気に入らない。

「飽きたなら言えばいいじゃん」

あ、やばい泣きそう。

不動は玄関のほうに歩き出した。
顔を見られたくなかった。

「あ、おい不動!」

くる、と首を少しだけ鬼道のほうに向けて笑った。

「バイバイ鬼道ちゃん」

愛してた。とひとこと呟いてパタンと扉が閉じられた。

鬼道はそれを追いかけもせずにただ呆然と廊下に立ち尽くしていた。崩壊


さようなら。愛してほしかった。

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