「持っていってやる」

部活が終わり、俺が1人で4個のサッカーボールを持っていたときだった。

部室まではまだまだ遠いしボールは落ちそうだし、で慎重にゆっくり歩いていると後ろから鬼道が小走りで来てくれた。

「…いいって」

チラと横目で見ると、鬼道がボールを取ろうとこちらに手を伸ばしているところだった。

俺はそれを避けようとして体をひねると、そのひょうしにボールが2球ちてしまった。

「チッ…落ちたじゃねーか」
「お前が素直に渡さないからだ」

落ちた2球を鬼道は拾って俺の隣に並んだ。


「……っ」

…実は少し嬉しかったりする。

鬼道君がこっちに走って手伝ってくれたとか、横に並んで歩いてるとか。

最近気付いたけど、どうやら俺は鬼道君のことが好きっぽい。

本当はちゃんと喋ったりしたいけどやっぱハズいから自分から鬼道君突き放したりしてる。

(俺、絶対馬鹿だ)

「はぁ…」
おもわず溜め息が零れた。

「俺のことがそんなに嫌いなのか?」「……は?」
「溜め息がでるほど俺が嫌か」

いやいやいや。
全然違ぇよ。

「…別に、ていうか普通そっちが俺のこと嫌いになるんじゃねぇの?」

「…あぁ、俺はお前が嫌いだ」

「フッ…んなこと知ってるって」

すっげぇドストレートで嫌いって言われたぞ。
なんか目熱いし。
ぐっと唇を噛んで俯いた。

…多分、もう少しで部室につくし、このまま黙ってたらすぐつくだろ。

「…いや、違うな。嫌いだった、だな」
「…は?何が?」
「お前のこと別に嫌いじゃない」


部室についた。
鬼道は部室の中に入ってボールを直しに行ったが、俺は部室の扉の前で立ち止まってしまった。

え?マジで、嫌いじゃないって?
嘘、嘘?嘘じゃねぇよ。
なんて独り言を言っていると

「不動、ボール渡せ」

と部室の奥から鬼道の声が聞こえた。

ハッと我にかえって鬼道にボールを渡してまじまじと見つめた。"お前のこと嫌いじゃない"
頭の中でこの言葉が踊っている。


「鬼道くん、俺のこと嫌いじゃねぇんだ」


ぼそっと小さな小さな声で呟いた。




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