時々南沢さんって、俺のことちゃんと恋人って思ってくれてるのか心配になる。そう速水に打ち明けたら、困ったようにうーんと首を捻られてしまった。



『倉間最近元気無いですね』

と速水が言ってきたのはさっきのこと。そんな感情自分では出していないつもりだったのに、流石速水というかなんというか…あっさりと気付かれてしまった。一人で悩んでいるのもなんだかあれだし、速水に相談してみようかなと思って、現在放課後の静かな教室で速水と二人きりで向かいあっている。(ちなみに浜野は釣りに行くらしくて先帰った)


「なんでまた…」
「だってよぉ…電話でさあ、明日遊びませんかって言ったら無理って言われて、じゃあ土曜日はって言っても無理って言われて、じゃあ日曜日って言ったら三国と…とか言われて。挙げ句の果てにはトリオで遊べば?とか言って一方的に電話切られたしさぁ。…俺しつこかったのかなあ」
「へぇ…」

なんか色々投げ出したくなって机に突っ伏せた。そういえば今日数学の宿題あったっけ、ああわかんないのにもう最悪だ。いつもは南沢さんに聞いてるからなんとかなってるけど、今はなんか気まずいしなあ。只でさえ学年離れてるっていうのに、今はもっと南沢さんが離れて感じる。

「…そりゃあ受験生で忙しいのもわかるけどさぁ、三国さんってなんだよ。俺<三国さんかよ、じゃあもう三国さんと付き合えばいいだろ…ってのは嘘だけど」
「ふっ…」
「笑うなよ」

人がこんなに悩んでるってのに速水の野郎は笑いだした。何が面白いんだよ俺にしちゃあ何にも面白くねぇよ馬鹿。俺は顔を上げて頬杖をつきながら速水を睨んだ。

「…南沢さんも同じ気持ちなのかもしれませんよ」
「……なにが」
「その、倉間<三国さんってやつですよ」
「…はぁ」

速水の言っている事の意味があまりよくわからなくて、説明してくれと首を傾げた。

「南沢さんも、自分<トリオって思っているかもしれないってことですよ」
「はぁ?なんで…」
「それは本人に聞かないとわかりませんよー」
「そんな…ぅわ!」

突然ポケットに入れていた携帯が震えだしたから、物凄くびっくりした。誰だよと思いながらも南沢さんかもしれない、という淡い期待を抱いて見た、ディスプレイに表示された文字は[南沢さん]だった。ちらりと前の速水を見ると、もう速水には電話の相手がバレているみたいで、どうぞと笑われた。若干焦りながら通話ボタンを押して「もしもし…」と言ってみれば、電話の向こうから少し不貞腐れたような声が聞こえてきた。

『お前今何してんの?』
「速水と学校、スけど…」
『……今から俺ん家来い。無理とか認めねえから』
「ちょ、みな…!?」

ぷつりと一方的に切られた電話の向こうからは、ツーツーという無機質な音しか聞こえない。今から家に来いって、あんた今日無理って言ってなかったけ…?

「倉間くん、行ってあげたらどうですか?」
「え…う、うん」
「ほら早く行かないと、南沢さんまた拗ねますよ」
「…わかった、ありがとな速水!」

鞄を引っ掴んで速水に手を振って教室から飛び出した。長い廊下を走り抜けて階段を転ばないように駆け下りる。途中で会った先生にさようならの挨拶もしないで、ただ南沢さんの家へ向かう事だけを考えて走った。
いくら運動部だからって一度も止まらないで走るのはキツいけど、南沢さんの為になら出来る気がした。もしかしたら今なら空も飛べるんじゃないかって馬鹿みたいなこと考えて走っていたら、やっと南沢さん家の屋根が見えてきて、ゆっくりと原減速していく。その玄関の前にじっとしゃがんでいる紫の髪の人物は、こちらを見るとゆっくりと立ち上がった。

「み、なみさわ、さん!」
「うわ!」

俺は嬉しくて南沢さんに体当たりする勢いで、がばりと胸板に飛びついた。南沢さんは一瞬ゆらりと後ろによろめいたけど、俺をしっかりと受け止めてくれた。

「おれっ、南沢さんが一番大切ですから!」

そう言うと南沢さんは、当たり前だろと笑って頭を撫でてくれた。







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