「もうやめた」

ガリガリとノートの上で動かしていた手を止めて教科書やノートを机の隅にまとめるとベッドにばふりとダイブした。
床に落ちている携帯に手を伸ばして、なんとなく開いてまた閉じた。開いて閉じて開いて閉じてを繰り返して、はぁと溜め息を溢す。テスト一週間前ということで、もう何日も倉間に会っていない。そしてそのテストは明日から三日間。なのに勉強する気は全く起きない。

「電話…か」

電話…掛けてやろうか。
ぱちんと再び携帯を開いたその時。ヴーヴーと携帯が震え始めて、ディスプレイには倉間と表示されていた。突然携帯が震えたのと倉間からの電話との事でどきどきしながら通話ボタンを押した。

「…はい」
『うわっ、南沢さんテンション低いっすね。もしかして迷惑でした?』

電話の向こうには倉間が当然いるわけだが、それがとても嬉しかった。その嬉しいという気持ちを悟られないように、声を抑えているだけで別にテンションは低くない。むしろ高い。

「別に…迷惑じゃないけど」
『だったらいいですけど』
「で、なんか用あんの?」
『あー…声、聞きたくなっただけです』

俺もさっきそれ思ってた。
クスッと笑うと倉間が機嫌悪そうに唸った。なんだかその顔が目に見えるようだ。そうだ、今会いたいって言ったら何て言うだろうか。

「なぁ、会いたい」
『えっ?』
「…なーんて嘘だよ」

っていうのは嘘だよ。とは言えない。本当は会いたいけど。

『…じゃあ部屋の窓開けてみてください』
「へ…?」

まさかな、携帯は左手に握り締めたままカラリと窓をスライドさせた。家の前に人がいる。そいつはこっちを見てぶんぶんと腕を振っていた。

「南沢さーん」
「ちょ、なんでここにいんの?」
「コンビニに行くついでです」

まじかよ。
…てか、ついでってなんだ。ついでって。まぁ、会えたのは嬉しいけどなんか複雑。

「ってのは嘘で南沢さんに会いに行くついでにコンビニ行くんです」
「…ばーか。家あがってく?」
「いや、いいです。また今度あがらせていただきます」
「そっか」
「それじゃあ、明日のテスト頑張ってくださいね」

ひらひらと手を振ってから歩いていく倉間の背中を見送ってから、カラリと窓を閉めた。未だ繋がったままの携帯の電源ボタンを押して、ベッドに投げた。
なんか明日のテスト、大丈夫な気しかしない。





刄eスト期間なんて

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