(大人鬼不)







「鬼道ちゃんもう行くの?」
不動はベッドの上でシーツにくるまって体育座りで、鬼道の着替える様子を見ていた。鬼道は床に無造作に脱ぎ捨てられていた服に袖を通してベッドの上の不動に困ったように笑いかけた。
「…会議があるからな」
そう答えた鬼道の深紅の瞳には少しの罪悪感の色が混じっていた。
(仕方ねぇよなぁ…)
不動はふぅと鬼道に聞こえないように溜め息をついた。
鬼道は必要な人間なんだ。
自分の我が儘なんて許してもらえる筈がない。でも不動はその我が儘を1度も口に出したことは無かった。
「不動」
「…、っ!!」
名前を呼ばれていることに気づいて不動が顔をあげると、不動の目の前には鬼道の顔のドアップが。
「…どうしたんだ?」
「なんでもねぇよ、早く行けば?」
嘘。本当は行ってなんてほしくない。でもお前は、俺の本当の言葉に気付いてくれないんだ。
「あ、ぁ行ってくる」
出ていくなら鍵閉めててな、と言って部屋から出ていった。
「ばか。」
ぼそっと呟いたつもりなのに1人しかいないこの部屋には、やけに大きく響いた。
「寂しい」
孤独にずっと生きてきたのに。いつから自分はこんなにも弱くなったのか。
「…全部鬼道ちゃんのせいだ」

ガタン、と扉が開いた。
「んだよ忘れもん?」
「いや、まだ出ていく時間じゃなかったんだ。今日は朝の会議が無い」
「そーかよ」
鬼道は不動の隣に座ってふわりと優しく抱き締めた。
「なぁ鬼道ちゃんさー、さっき俺が言ってたこと聞いた?」
「…聞いてない」
「そっかー」
「聞いてればよかったのか?」
「別に、聞かなくてよかったこと」
「…何分に出てくの?」
「あと2分ぐらい」
「ハッ、じゃあ家帰ってこなくていいじゃん」
違う。本当は帰ってきてくれて嬉しい。だって会いに帰ってきてくれたんだろ?
「不動に会いたかったから。」
「ばーか…」
そんな事言われると離れるとき寂しくなるだろ?独りは嫌なんだよ。
「…そろそろ行ってくる」
「……。」
不動は離れて行こうとする鬼道のシャツを引っ張った。
「不動」
ぴくりと不動の肩が揺れた。
「…独りにすんな」
消え入りそうな程の小さな声。しかし鬼道の耳にはしっかりと届いていた。不動は俯いているが、その顔は真っ赤だろう。
「今日は休む」
ぎゅ、と不動を抱き締めた。今度は、強く。
「ば、かじゃねーの?」
「だって寂しいんだろ?」
ニヤ、と鬼道は笑った。どうやらS鬼道がでてきたようだ。
「ほら、もう寂しくないだろう?」
「チッ…」
鬼道はベッドから降りてスーツを脱ぐと、パサリと床に落とした。シュル、とネクタイもほどいて床に落とす。
「シワになるぞ」
「いいんだ、それより…」
おいで、と両腕を広げた。不動はそれを見てぎゅっと眉を寄せるが、ベッドから立ち上がった。
「寂しくないように、今日はずっと側にいてやろう」
不動はチッと舌打ちをするとポスッとおとなしく鬼道の腕のなかにおさまった。

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