少しだけ、頑張ってみようか。


鬼道君に嫌いじゃないと言われたから。
多分、期待してんだ。

もしかしたらって。







(あ、鬼道クン)
部室の影に隠れて…あんなとこで何してんだ?

ザッザッと鬼道に近づいていくと、どうやらもう1人誰かいることがわかった。

(誰だか知らねぇが…此処で立ち聞きしてやるか)

コソ、と壁から少しだけ顔をだしてみた。

…そこに立っていたのは鬼道と豪炎寺だった。


「俺……が好きだ…」

しかも豪炎寺の告白っぽい場面。

(……マジかよ…)

鬼道はなんと答えるのか。
俺は鬼道の答えをじっと待つ。

鬼道は口を開いて何か言っているがよく聞こえない。

(くそ、聞こえねぇ…)

「俺も……お前……好きだ…」

(は?好き…?お前……?)

「じゃあ…付き合っ……」

(……両想い…?)


始めから頑張ったって、なんも意味なかったんだ。

俺は耐えきれなくなって、その場から走って逃げた。


頭が痛い。
部屋にもどってベッドの上でシーツにくるまっていた。
泣きすぎて頭が痛いし水分が足りない。

「……きどー…ちゃん」

唇は乾燥していた。
少し口を動かしただけなのに薄い皮膚が裂けて血が出た。
「痛っ……」
口の中に微かに鉄の味が広がった。

少し体を起こして時計を見た。
「6時か…」
体を起こしたついでに水を飲もうとベッドから降りて部屋を出た。

食堂を覗いてみると、既に何人か椅子に座って雑談をしていた。
(…あぁ、あと30分で飯だからな。)
俺も座って待ってようかな。
コップに水を注いで、それを飲み干し、皆がいるところから離れた席に座ってテーブルに突っ伏した。

遠くのほうで基山クンやキャプテンの声が聞こえる。
何を言ってるのかはわからないけど。


(飯まだかな…)
そんなことを考えていると、
カタンと隣の席に誰かが座ったような気配がした。
チラ、と目だけを動かして横を見てみると鬼道クンが座っていた。
俺は思わず顔をバッと上げてしまった。
「!!!?」
何故に鬼道くん?
あっちこっちに空席があるじゃん。
なんで此所に座るんだよ。そんなに其処の席が好きなのかよ。おい。
「あぁ不動、此所座ってもいいか?」
「え、なんで此所なの、皆のとこには行かないの?」
例えば豪炎寺とか…

「此所に座っては迷惑か?」
「いや、そうじゃなくて…」

豪炎寺ほっといていいのかよ??
と思っていたら豪炎寺登場。
豪炎寺は鬼道くんの正面にトレーを置いて座った。

…ああ気まず。俺絶対コイツらの邪魔だよな。

「不動、俺も此所で食べてもいいか?」
「…もう好きにしろよ」

飯を取りに席を立った。
正直鬼道クンが隣ってのは嬉しい。
けどな、隣でイチャつかれたらどうすんだよ。
ああ俺はどうすれば…

…あ、今日はカレーかよ。
よっしゃトマト入ってねーぞ。

と喜びも束の間。
席に戻っていただきます、とカレーを口に運んだ瞬間。
「いィッ!!」
びりびりっと激痛が走っておもわず顔をしかめた。

「どうしたんだ?
…ッ、唇切れてるじゃないか」



鬼道クンの長い指が俺の唇に触れた。
ツイと撫でると困ったように眉を寄せた。
俺はパシッとその手を払ってガタッと席を立った。
わなわなと体が震える。
皆何の騒ぎだとこちらを見ているが、そんなことどうでもいい。
ぎゅっと拳を強く握った。


豪炎寺が好きならことするなよ。
簡単に俺に触んなよ。
諦められなくなるだろ?
触れられる度、どんどん好きになってく自分が怖い。
…あんたは俺の心を滅茶苦茶に引っ掻き回してくんだ。


ぎゅうっと胸が締め付けられるような苦しみが襲いかかってきた。

俺は食堂から逃げるように出ていった。







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