※豪不表現有



「はぁ…」

誰もいない廊下をとぼとぼ歩いていた。
ぱた…ぱた…と自分の足音が虚しく響く。

(あーあ、次会うの気まずいな…)

なんだか部屋に戻るのがめんどくさくなってきた。
腹も減ったし…でも食堂に行くのは嫌だ。

窓をカラカラと開けて、そこからグラウンドを見た。
でもこの景色は見飽きてる。何も面白くない。
空は雲が覆っていて今にも雨が降りだしそうだ。
そんなことでさえもが俺を更に憂鬱にさせた。

「はー…」
無意識に溜め息がでる。
あー…幸せ逃げまくりだな…
なんかもう幸せなんかどうでもいいや。

「鬼道…」
鬼道に会いたい。でもやっぱ会いたくない。
「きどー…ちゃん」
さっきよりも少し大きな声で呼んでみた。
やっぱり、なんだ?って答える人はいなくて、わんわんと廊下に響いた。
好き。大好き。どうしようもないくらい、好き。

「はぁ」
またひとつ溜め息が溢れる。

「……?」

背後に人の気配がした。

いつからいたんだ。誰だ?と振り返ろうとした、その時。

「…っわ!?」
ふわっと後ろからその人物に抱きすくめられた。
「だ、れ…だよ!」
腕をはがそうとするが力が強くて離れない。それどころかだんだん強くなってる気がする。
目の前の窓に映っている人物が誰かを確かめた。
ソイツは予想もしなかった奴だった。


「……豪炎寺クン…?」
豪炎寺の体がぴくりと揺れた。
その瞬間、体に巻き付いている腕を剥がしてぐるりと振り返った。

「どけ!」
ドン、と体を押したけど豪炎寺は離れなかった。
「なんでアンタが……」
頭ん中がぐちゃぐちゃだ。
鬼道クンは?なんで鬼道クンと付き合ってんのに俺に抱き着くんだよ?
「好きだから…」
「はァ?」
「だからお前が好きなんだ」
…何言ってんの?コイツ。
頭の中がよけいにぐちゃぐちゃになった。
「鬼道クンと付き合ってんじゃねーのかよ!?」
「鬼道…?付き合うわけないだろ、お前が好きなのに」
「じゃあ、倉庫の裏で喋ってたことはなんだよ!!付き合うとか好きとか言ってたじゃねーか!」
「あれは…お前のことだ。もうわかっただろう?」ガタッと手首を掴まれて窓に押さえ付けられた。
「やっ、離せ……ッん!!」
黙れ、の言葉の代わりに唇を塞がれた。
やば……、口を閉じる前に
ヌル…と舌がはいってきてぎゅっと目を瞑った。

「ふ…ッや…っは…」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、気持ち悪い。
ぼろぼろと涙が溢れて頬を伝った、その瞬間。
「ぐっ」
「ッ!?」
口の中から突然違和感が消えて、目を開けると豪炎寺は廊下に倒れていた。

「へ……?」
「…大丈夫か、不動」

声のしたほうに首を向けた。
嘘だろ。
涙がどんどん溢れてくる。

「きどう……」
「……」

パシと鬼道が俺の手首を掴んだ。
反射的にその手を振りほどいて俯いたが、鬼道がもう一度その手を取ってぐんと引かれた。痛い。
ギッと睨みつけると少し力を緩められた。

「鬼道…」
豪炎寺は立ち上がって鬼道を睨み付けると、チッと舌打ちをして階段を上がって行ってしまった。

「ちょ……」
こんな空気残していくんじゃねーよ。
腕はずっと掴まれたままだ。
すると鬼道は俺の腕を掴んでままスタスタと前を歩いていく。

「…鬼道クン」「……」
「鬼道ッ」

何も言わない鬼道が怖かった。
タンタンと階段を上がって、俺たちの部屋がある廊下を歩いてひとつの扉の前で止まった。

「…やだ」
「いいから入れ」

ぐいっと腕を引かれてよろめきながら部屋の中に入った。
あーあ。ついに鬼道クンの部屋に入ってしまった。
部屋の中は鬼道クンの匂いが微かにしていて、その匂いに頭がクラクラした。

鬼道が扉の前から動かないからどうするんだろうとジッと見ていると、じりとこちらに寄ってトンと体の横の壁に手をついた。

顔、近いって。

「…不動」
「…な、に」
顔の近さにドキリとしながら必死に声が上擦らないようにおさえた。
ゴーグルの奥につりあがった鬼道クンの目が見えた。
1度だけ見たことがある。とても綺麗な赤だった。なんだかその瞳に引き込まれそうだ。
鼻に何かがあたってハッと我に返ると鬼道の顔が目の前にあって、唇が重ねられた。

「!!?」

あまりの突然さに驚いた。
腕を突っぱねると鬼道は壁に、思い切り背中を打ち付けた。
「ッつ…」
「あ…」迷う間もなくドアを開けると部屋から飛び出した。
後ろから呼び止める声が聞こえるけど、止まるわけなくてただひたすら廊下を走った。







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