(年齢操作で20)




12回、時計は音を鳴らした。

「不動、もう起きろ、もう12時だ」
「んん…まだ大丈夫…」
「……何が大丈夫なんだ」

ゆさゆさと鬼道は隣で眠る不動を揺すった。不動はまだ眠たいらしく、布団を掴んで放さない。
そんな不動をみてハァと溜め息を溢した。
自分ひとりでは何もできないというのに。
鬼道はベッドから出ると窓にかかっている大きなカーテンを開けた。
強烈な朝の光が入り込んできたが、鬼道はそれを眩しいとは思わない。そして熱で暖かくなったガラスに手をつけると太陽があるであろう少し上を向いた。
「……、」
見えない。わからない。
そして鬼道は最後に見た太陽の光を思い出した。
そして4年前のことも。

4年前に鬼道は失明した。
目に思い切りサッカーボールがぶつかったのだ。
ボールがあたって痛かったが目は特に痛くなくてそのまま放っておいたのだ。しかしそれが駄目だった。あの時病院に行けばよかったのに。
その日から数日後、鬼道の目は二度と光を映さなくなった。網膜剥離、というらしい。原因はボールがあたったこと。
前兆みたいなのはあった。黒い点みたいなのがちらちらと飛んでいた。

そしてあの日。
何気なく上を見上げた。綺麗に澄んだ青い空を、そこでサンサンと輝いている太陽を見た、その瞬間。
プツン、と電気が消えたように周りが真っ暗になった。
それからはパニックになりすぎてあまり覚えていない。どうして行ったのかは知らないが病院にいた。
そこで言われた、
『もう二度と目は見えないだろう』
という医者の言葉が頭から離れなくて、部屋で1人叫んだのを覚えている。

『ずっと鬼道くんの側にいる』

あの時不動はそう言った。
それから鬼道の家に一緒に住んで鬼道の介護をするようになったのだ。

「……不動?」
鬼道は微かに感じた不動の気配に気づいた。そして後ろは振り向かずに問いかける。
不動はとん、と鬼道に体重を預けると腕を腰にぎゅっと絡めた。
「オハヨ、鬼道くん」
不動はぎゅうと強く抱き着いておはようと言った。
鬼道の細い指がガラスを滑ってキュと音をたてた。そして微かに口を動かした。
「……不動は…」
「……俺と居て楽しいのか?」鬼道は言ってからハッとした。自分はなんてことを言ったんだ。取り消しの言葉を探すけれど上手く声がでない。
「…鬼道クン」
「…、」
「散歩、行こうぜ」





「久しぶり…だな」
「んー?」
公園に行こうと不動は言った。
じゃり、じゃり。
砂を踏んで歩くのはいつぶりだろう、と鬼道は思った。
「外に出るのは…」
ジジジ…と蝉の声がうるさいぐらい聞こえる。あぁ、今は夏なのか。と呟いたら不動は今更と苦笑した。
長い間長距離を歩いていなかったせいか、だんだん足が疲れてきたようだ。そんな鬼道を気遣ってか不動は近くのベンチに座ろうと言った。

日影でじっとしているだけでも汗が吹き出てくる。
「……」
ベンチで2人は何も喋らないままで、ただ静かに時間だけが過ぎていった。
そして先に沈黙を破ったのは不動だった。

「俺さぁ、自分でも困るくらいお前のこと好きだから」
「え…?」
「だからさぁ…あんなことゆうなよ」
鬼道は不動が最初何を言っているのかわからなかったが、やっとさっき言ったことの答えだとわかった。どうやら不動は今までどうやって伝えようか悩んでいたらしい。
もともと、あまり喋らないせいか上手く言葉に出来なくて1人でパニックになっている。
「あ、だから…あー…俺は、同情とかでお前と一緒にいるんじゃなくて、好きだから一緒にいんだってこと!」
やっと言いたいことが言えてひとつ大きく息を吐いた。周りを見ると通行人が何事かとこちらを見ていた。
少し声が大きかったかな、と少し赤面した。
「…ありがとう、不動」
「…おう」
「お前に好きって言ってもらえて凄く嬉しい」
「…うん」
「…俺も不動が大好きだ」
「知ってる」
じゃあ、そろそろ帰るか、と鬼道が立ち上がって不動もつられて立ち上がる。
すると鬼道が不動の前に左手を差し出した。
「行くぞ」
「…ばかだろ」
そう言いつつも不動は右手を鬼道の指に絡めて困ったように笑った。








君といれれば幸せです

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