(若干の不動視点)




「あ、きどーくん」

少し遅めに家を出た不動は急いで待ち合わせ場所へと向かった。時計の針は11と5を指している。辺りは日曜日だからか人通りが多くて騒がしい。もともと不動はこういう賑やかなところは好きじゃない。たくさんの人にうんざりしながらも、少し遠くに見える鬼道を目指して必死に人混みを掻き分けた。

「きどークン」
「…不動」

俯いていた顔をあげるとこちらを見てふわりと笑った。不動はその笑顔に不覚にも胸がきゅんとしてしまった。抱き着きたい気持ちを抑えながら「早く行くぞ」と手を引いて歩く。といっても何処へも行く宛がなくて暫くの間うろうろしていた。そして不動は周りの視線がこちらに痛いほど向けられていることに気付いた。なんでこんなに見られてるんだ、と思いふと自分の左手を見た。

「なっ…!」
「?どうした不動」

腕を引っ張っていた筈なのにいつの間にか指が絡んでいて所詮『恋人繋ぎ』というやつになっていた。鬼道はどうやら確信犯のようで、赤い瞳を細めてニヤニヤと笑っている。ひとこと文句を言ってやろうと口を開いた瞬間、ぐんっと手を強く引かれてしまった。結局手は繋がれたまま不動は鬼道の後ろをついていく。

「どこ行くんだ!離せ!」
「…貴様に似合う服を見立ててやろうと思ってな」

そう言ったきり口を閉じてしまった。周囲から好奇の視線を浴びながら二人は通りにある古着屋に入った。
「あ、ここ…」不動が呟くと鬼道はフッと鼻で笑った。
此処は不動のよく来る店だった。偶然なのか知っててなのか。ふと見ると手はいつの間にか放されていて、鬼道は向こうで服を選んでいた。

(服を選ぶといっても…)

不動は正直不安だった。それもその筈、鬼道は中学のときゴーグルにマントというあり得ないファッションだった。流石に今はゴーグルもマントもついていないが。不動は綺麗にたたまれたTシャツを広げて眺めると、再びたたんで棚に戻した。

「不動」
「…お」

どうやら決まったようだ。鬼道は何着か服を持ってこちらに歩み寄って来た。

「んー…」

不動は小さく呻いた。それらは普段不動が着ないような黒やら白やらの落ち着いたモノクロカラー。普段派手目な色の服しか着ない不動は自分には絶対に似合わないだろうと思った。

「黒や白も似合うと思うんだが」
「ふーん…。鬼道クンがいいならいいよそれで」

そして勘定に行った鬼道より先に店を出ると、自然と上がる口角を手で覆って隠した。不動は鬼道に素っ気なくしていたが内心すごく嬉しいのだ。鬼道が選んでくれるならなんだって嬉しい。カランカランとドアベルが鳴って鬼道が店から出てきたと同時に口を覆っていた手を外した。

「…ありがと」
「どういたしまして」

そして鬼道は不動の左手に指を絡めるとさっさと先に立って歩き出した。多分鬼道の家に行くんだろうなと思いながら、歩幅をあわせて歩いた。

「帰ったら…着てみてくれないか?」
「…おう」





只今絶賛幸せ中



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