※不動視点




コンコンとノックの音がした。どくんと心臓が高鳴った。鬼道くんだ。だって俺の部屋に入ってくるのは鬼道くんぐらいだから。嬉しい気持ちを隠して適当に返事をするとガチャリと扉が開いて鬼道くんが中に入ってきた。ベッドに寝転んでいた俺の側に近付いてきた。

「…なんか用かよ」
「いや、用は無いが…」

ただ逢いたかっただけだって小さい声が聞こえた。ばっかじゃねーのって精一杯強がったけど、顔は真っ赤なんだろうな、すっげぇ熱い。ギシリ、鬼道がベッドの淵に腰掛けた。ふわりと鬼道の匂いがして、思わずシーツに顔を埋めた。

「〜〜ッ」
「…不動?」

少しだけ首を傾けてみたら意外と鬼道クンの顔が近くてびっくりした。さっきまであったゴーグルが無くなっていて俺の好きな瞳が晒されていた。

「鬼道クンなんか大嫌い」

だってお前余裕だし。カッコいいし。俺ばっか好きみたい。ムカつく。

「馬鹿だしゴーグルだしマントだし、大嫌い。出てけ」

『出てけ』は言うつもりなんかなかった。それにこんなの全部嘘だし。でもコイツ真に受けるから。そしたらやっぱり部屋から出ていこうとしてる。俺は咄嗟にひらりと揺れたマントの裾を掴んだ。

「馬鹿、嘘に決まってんだろ」
「…そうか」

そう言うとまた鬼道はベッドに座った。こちらに向けられた背中が意外と広いことに気付く。俺はベッドから起き上がると、その背中をじいと見詰めていた。ふと抱き着きたい感情に駆られて無意識に手を伸ばしていた。しかし、あともう2、3センチのところで慌ててその手を引っ込めた。別に抱き着いてもいいんだろうけど、恥ずい。でも、と手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返す。そして俺はついに決心して鬼道クンの背中に手を伸ばした。

「〜!」
「さっきからどうしたんだ……って不動?」

鬼道クンの背中まであと少しってとこで鬼道クンはくるりと振り向いた。鬼道クンは不自然に伸びた俺の腕を見ている。俺はその腕を引っ込めて俯いた。

「不動…」
「ちが、これはっ…な、なんとなくしてみただけだ!べつに抱き着きたいとかじゃねぇ!」

言ってからハッと口を塞いだ。なんか俺、余計なこと言った気がする。頭の上らへんで鬼道クンが笑っているのがわかった。しゅるりとシーツが擦れる音にぴくりと肩が揺れた。多分鬼道クン、こっちを見てる。

「不動」
「な…!」

突然、ふわって暖かくなって思わず目を目を見開いた。俺、抱き締められてる。

「…すまない不動。気付かなくて」
「……離せばか」

離せとか言いながら鬼道の背中に手を回す。スンと大好きな鬼道クンの匂いを目一杯吸い込む。このまま体の中に溜めていたかったけど、結局苦しくて息を吐いた。それがなんだか悔しくてぐりぐりと頭を胸に擦りつけたら、ぽんぽんと頭を叩かれた。

「不動、好きだ」
「……んなの、知ってる」

悔しいくらい好きだっつーの。ばふりと鬼道クンに体重を預けると服をぎゅっと握って目を瞑った。


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