夏は暑いから嫌い。プールとかアイスとかは大好きだけど、やっぱり暑いのには耐えられない。かといって冬が好きなのかといわれると、そうでもない。冬は寒いから嫌い。炬燵とか鍋とか色々あるけど、やっぱり寒いから嫌い。そんな我が儘な俺には、暑くもなく寒くもない、丁度良い感じの今のこの季節がぴったりなのだ。

「秋、だな」
「ん…」

ひらひらと上から赤や黄色に染まった様々な葉が落ちてくる。お陰でこの真っ黒なアスファルトも、綺麗な絨毯が敷かれたみたいに鮮やかだ。その鮮やかな絨毯を踏む度に鳴る音が楽しくて、わざとざかざかと音をたてて歩いていたら隣を歩く鬼道に笑われてしまった。「なに笑ってんだよ」「子供みたいだと思ってな」「放っとけばーか」むかつくから軽く足を蹴りあげて、落ち葉をかけてやった。鬼道の服にはたくさんの葉がくっついていて、なかなか取れなさそうだ。必死になって服を払う鬼道が面白くて、けらけら笑っていたら、今度は逆にこっちが落ち葉をかけられてしまった。バラバラと舞うオレンジの隙間で、鬼道が可笑しそうに笑うのが見えた。

「て、め…」
「ふ…貴様が先にやったんだろうが」

このやろう。とさっきよりも強めに蹴りあげる。油断していた鬼道はそれを真正面からくらって、髪やらコートやらに引っ付いた。でもここで終わらないのが鬼道で、クールな奴に見えても案外ガキっぽいところがあるのだ。

「こ、の…!」
「やろぉ…!」

お互いにヒートアップしてしまい、気付いた時には俺達の周りに沢山あったはずの落ち葉はすっかり無くなっていて、周りの通行人には物凄く痛い目で見られていた。それもその筈、子供ならまだ微笑ましいものだが、いい年した大人が葉っぱかけあって喜んでるんだから、変質者以外の何者でもない。それに見た目も、鬼道は今はゴーグルをつけていないけど一見ヤーさんみたいだし、俺も自分でいうのも何だけどニートみたいだし。偶々目が合った、ベンチに座っていた老夫婦はそそくさと逃げていくし、偶々通りかかった親子連れの母親は、見たら駄目とか言ってあからさまに子供の目を隠すし。…なんつうか、今すっげえ恥ずいんだけど。

「もう…行くか」
「お、おぉ…」

ぱんぱんと葉っぱを払いながら、ちらりと見やった鬼道の顔は珍しく真っ赤で、気まずそうに地面に視線を這わしていた。(…鬼道が真っ赤だ。あの鬼道が恥ずかしがってる、あのクール気取ってる鬼道が…)なんて考えていたら。

「ぶふっ」

とうとう堪えきれなくなって吹き出してしまった。当然鬼道は何故俺が笑っているのかわからないから、困惑した顔で見つめてくる。

「あのクールな鬼道くんが、顔真っ赤にして…ははっ、」
「な…笑うな!」
「あはは…ってうわ!」

ぱさぱさと頭に降りかかるのは鮮やかな葉っぱ。しまった。不意討ちをくらった俺は、さっき払ったばかりなのに再び葉っぱまみれとなった。こんのやろう、せっかく払ったのに何しやがんだ。しかもすっげードヤ顔しやがって。「もう許さねえ」「ん?」「葉っぱ食らいやがれえええ!」…そんなこんなで再び始まった葉っぱ戦争。通りかかった親子連れが俺達のことを馬鹿にしようが、老夫婦が逃げようがもう俺達には関係ない。それから小一時間ほど無我夢中で掛け合った俺達は、すっかりどろどろになっていた。

「ふ…ははっ」
「ははっ…」

頭から何まで葉っぱまみれになった互いを見て、声を出して笑いあった。そんなとある秋の日の散歩道でのこと。










イタ丸様へ『季節感のある鬼不』素敵リクエストありがとうございました。季節は秋をイメージしてみました。不動は秋か冬が好きそうかなと思ったんで…。ほんといい大人が何やってんだって話なんですが、不動は心は子供のままだと思ったので^^
こんな駄文ですが、貰って頂けたら嬉しいです。

(イタ丸様のみフリー)

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