カランカランと扉が開く度に鳴る鐘と、いらっしゃいませという店員の声がひっきりなしに聞こえてくる。それらをどこかぼんやりと聞きながら、ここの店はきっと潰れることはないなと思った。

俺は今、某ファーストフード店に来ていた。俺っていうか、こいつらもいるから俺達か。今日は特に重要な講義もないから、いつもの二人を此処に呼び出したのだ。人が最も多くなるお昼時、三人分の席はあるかと心配だったが、運よく窓際の隅のほうに4人用の席を見つけ、そこへ座ったのだ。窓際はあまり好きじゃないけど仕方がない。頬杖をつきながらふと窓の外を見てみると、駅前だということで人が沢山溢れかえっていた。
(…そういえばあの人、前に人混みが嫌いだって言ってたっけ)
そこで俺は、そういえばコイツらに言いたかったことがあったんだと思い出した。さっき頼んだコーラのストローをくわえながら、テーブルに広げた雑誌を前に座る二人のほうに押しやった。

「これ見ろよ」

ハンバーガーをくわえた浜野とポテトを摘まむ速水が、そのページを覗きこむ。ああ、と二人は理解したらしく、眉を寄せて苦笑した。それと同時に俺は、持っていたコーラのカップをカンッと勢いよく叩き付けた。速水は小さい悲鳴と共にびくっと体を揺らした。

「南沢さんまた載ってんの。すごくね?もうヤバいだろ、超格好いい」
「ああ、はい…」
「確かに格好いいねー」
「だろー」

ポテトを一本摘まんで、雑誌を此方に引き寄せた。開かれたページ見開きには、一人の男性が取り上げられて写っている。紫の髪に落ち着いた黒は、よく似合っていた。

南沢篤志。それがこの人の名前で、俺の恋人でもある人の名前。つまり、この格好よくポーズを決めている人は、俺の恋人なのだ。

「…南沢さん凄いと思わねえ?見開きだぜ、見開き。ちょっと前は小さく写ってただけなのになあ。本人にも見開きだって何回も自慢された」
「…はあ」
「なに溜め息ついてんだよ、速水。てめえ南沢さん馬鹿にしてんのか、そうなのか」
「意味わかんないですよ…!」

速水をぎらっと睨み付ける。「あんま速水苛めんなよー」…別に苛めてねえし。だいたい昔っから浜野は速水に甘いんだよ。
噛んでぼろぼろになったストローを啜ったけれど、水っぽくなったコーラしか入ってこなかった。チッ、絶対速水のせいだ。
「…罰としてお前、今日は俺の話全部聞いてもらうからな」
「ええぇ!」

浜野と速水が血相を変え始める。速水と浜野はお腹に手を当てて、椅子から立ち上がろうとした。そして二人が、わざとらしい演技で申し訳なさそうに口を開く。「ちょっと俺ら…「待てよ」う…っ」二人の言葉に被せて言った。

「急に腹が痛くなったとか言うのは無しな。あと、急に釣りの予定が入ったとか、用事思い出したとかも無しな」

俺がにこりと笑ったのと同時に、二人の目尻がきらりと光った。



***



南沢さんについて喋っていたら、いつの間にか二時間以上も経っていたことに気付いた。
目の前の二人は生ける屍のようだ。目は虚ろで、今にも吐きそうなぐらい顔色が悪い。ちょっと話し過ぎたかと思って、おいと声をかけようとしたけれど、何故か目に光を宿した速水に先を越されてしまった。

「倉間は本当に南沢さん大好きなんですねえ…」
「当たり前だろ。多分俺南沢さんの為なら死ねる。翔べる。ヤバい、好きすぎて死ねる。どうしよう」
「…だそうですよ、南沢さん」
「………は?」




にやつく速水の視線は、俺ではなく、その後ろ。南沢という言葉が耳に引っ掛かる。変な汗が背中を伝った。
…まさか。そろそろと後ろを振り返ってみる。俺は絶句した。そこには真っ赤な顔をした南沢さんが、口に手をあてて立っていた。その様子からすると、どうやらさっきのは聞かれていたようで。まさか本人がいるなんて思わなかった。俺はさっき自分が言ったことを思い出して、顔から火を出しそうになった。

「な…なんで…」
「いや、メールがきたから…仕事場近いし、ちょうど休憩で…いや、それより倉間。さっきの俺の為ならってやつ、もっかい言えよ」
「……ぜってえ言わねえよ!」


俺が南沢さんに「もう一回」としつこくせがまれているのを、速水が様あ見ろと笑っていたのを俺は知らない。








瀬田様へ『モデル沢と大学生倉間←浜+速』素敵リクエストありがとうございました。
応援メッセージもありがとうございます!これからも更新頑張ります(^o^)ありがとうございました…!

(瀬田様のみフリー)

thanks:パニエ


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