うーあー、イライラする。まだかまだかとちらりと寄越した視線の先5メートルぐらいでは、南沢さんと霧野が未だ喋り続けていた。何の話かは、遠いから聞こえないけど、雰囲気が物凄く盛り上がっているのは此処からでもわかった。先帰んなよって言われたから仕方なく待ってるけど、さっきからこっちに目もくれないし、多分あの人俺の存在忘れてる。お先ー!と言って出ていく浜野の背中を見て、羨ましく思った。俺もしんどいし腹減ったし、早く家帰りたいんだけど。腹に手を当てると、ぐるると悲しい音が聞こえてきた。いつまで放っとく気だよ南沢さんの馬鹿やろう。俺は少し大きめの長椅子の上で、両膝を抱えて顔を埋めた。

(んだよ、霧野とばっかあんなに楽しそうに喋ってさ)

俺が早く帰りたい訳は、疲れたのもあるんだけど、もうひとつあった。南沢さんと霧野が仲良く喋っているっていうのが、なんだか物凄く嫌だった。
所謂ヤキモチってやつ。南沢さんを好きになるまで、こんなもやもやした気持ち知らなかった。最近は、こんな妬いてばっかりだから、あんまり知りたくなかった気もするけど。

「…えー、南沢さん…」
「……だから…」

視界を封じたからか、遠くの南沢さん達の声も、聞こえるようになった。時々混じる笑い声。神童もいるみたいだ。
もう神童いいから、早く霧野連れて帰ってくれよ。
俺の心の叫びもかき消されるように、三人の笑い声が聞こえてきた。結局、先に帰ってもいいですかとも言えず、南沢さん達の話が終わったのは、あと20分後のことだった。



***



サッカー棟から出ると、もうすっかり辺りは暗くなっていた。携帯で確認してみると、デジタルの文字が18:50を表示していた。思わずしてしまった舌打ちは、南沢さんの耳には届かなかったようだ。

「遅いです。遅すぎ」
「いやー、なんか思ったより霧野と話が合ってさあ」
「…あっそ」

どうして開口一番それなんだ。普通なら、ごめんとかだろ。本当どこまでも俺様っていうか、他人の気持ちは関係ないっていうか。ムカつくから、足元に転がっていた石を蹴ったら、どこか暗い方に転がって消えた。

「…何でそんな怒ってんだよ」
「別に怒ってないです。強いて言うなら南沢さんが謝らないことですかね」
「ごめん」

もうどうして、今日に限ってそんなに素直なんだ。以外と素直に降ってきた、ごめんという言葉に少し驚いた。「なんで驚くんだよ」…いやまさか、本当に謝ってくれるなんて思ってなかったから。

「…で、そんだけ?」
「え?」
「怒ってた理由。そんだけ?」
「……」

理由?理由なら他にもありますよ。あなたが霧野ばっかりで、俺に構ってくれなかったことですけど。勿論それらの言葉は声には出さなかった。
横を歩く、頭ひとつぶん違う南沢さんを見上げたら、此方を見ていた見たいで視線がかち合った。にやにやしているところを見ると、きっとその、もうひとつの理由をわかってて言っているんだろう。本当先輩いい性格してますね。

「…霧野にヤキモチ妬いてましたがなにか?」
「あー、やっぱり」
「なにが、やっぱりだよ。知ってたんなら聞くなよ」
「ん、ごめんごめん。倉間が可愛かったから」

そう言って頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜられる。そんな言葉で許すと思うなよ…なんて、もう俺にはとっくに怒る気なんて無かった。



「手、繋いでくれたら許す」
「お、珍しくデレた」
「うっさい早くしろ!」
「はいはい」











宮沢様へ『妬いちゃう倉間』素敵リクエストありがとうございました。

(宮沢様のみフリー)

thanks:意味


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