「最っ悪だ…」

それが今の自分の素直な気持ちだった。隣には、俺と同じように眉を寄せる鬼道がいるが、円堂や風丸達の姿は何処にもない。つまり…「はぐれてしまったようだな」そういうこと。
日曜日の遊園地なんか、家族連れとかカップルとか、いろんな奴がいるから、あいつらが何処にいんのか全然わかんねぇし。いやまて。そもそもから、こんな25のいい歳したおっさん達が、遊園地にくることが間違ってたんだ。10年たった今でも皆(俺もか)なんだかんだ、円堂に振り回されてるよなあ。
…って、今はそれどころじゃないんだった。一刻も早くこの事態をなんとかしないと、大変なことになる。

「クソ!なんでよりにもよってお前なんかと…!」
「照れ隠しはよせ、不動」
「照れ隠しじゃねーよ馬鹿!お前と一緒にいたらロクなこと起きねえから嫌なんだよ!」

そう。別にこいつといるのが嫌って訳じゃない。じゃあ何が嫌なのか。それは、鬼道と外出でもしたら最悪なことしか起きないということだ。車の渋滞なんかしょっちゅうだし、不良に絡まれるし(これは見た目のせいか?)、もう散々だ。さあ今日はなんだ。アトラクションの故障か?財布落とすか?携帯の電源切れてるか…?

「…だと思った」

ポケットから取り出した携帯の画面は、予想通り真っ黒だった。あまり期待しないが、隣のやつにも聞いてみる。「お前のは?」「切れている…」どうせそうだと思ったよ。

「あーもう仕方ねぇ!こうなったら自力で探すぞ!」
「ああ」
「よし、じゃああっちから……?」

ジェットコースターに向かおうと、右足を踏み込んだ瞬間、後ろに上着を引っ張られる違和感を感じた。円堂達か?そういう希望を持って、後ろを振り向く。…その期待も直ぐに裏切られたけど。

「ぼくのままはどこぉ…!!」
「………あ?」



***



「クソ!んだよ、てめぇのママなんか探してる場合じゃねえんだよ!」
「ひ!」
「おい不動、あまり怖がらせるな…」
「っせえよバーカ!ほんとテメェといたらこんなのばっかだ!」

親とはぐれたらしいチビを肩に乗せて、一緒に家族を探してやる。このチビ肩車が初めてなのか、頭の上ですっげえはしゃいでやがる。…コイツ本当に母親探す気あんのかよ。

「おいチビ。ママは見っかったのかよ?」
「うん、さっきいたよ」
「はぁぁあ!!?」

ぴっとチビの指差す先は、俺達が今さっき通ったところ。つまりすれ違ったってことだ。「なんということだ…」そう言う割りに、そんなに今の状況を深刻に考えていない鬼道に、腹が立って仕方なかった。このチビがいるから殴らないだけで、いなかったら今頃マジで鳩尾だからな。

「仕方ない…」

俺達は、再び今来た道を引き返すことにした。



***



「本当にありがとうございます」

あれから10分くらい歩き回って、ようやくチビの母親を見付けた。母親は本当に嬉しそうにチビを抱き締めて、何度も御礼を言ってくれた。ありがとうなんか普段言われないから、少し照れ臭い。それを紛らすように、チビの頭に手を置いた。

「もう絶対迷うなよ」
「うん!お兄ちゃんたちまたね」
「ああ、またな」「ばかか、もう会うことはねえよ」

バイバイと手を振って歩いていくチビに、ひらひらと手を振り返した。よかったよかった、見付かって。
少し肩が寂しくなった気がしたけど、それには敢えて気付かないふりをした。

「…さぁて、円堂達を探すか」
「ふ…そうだな」
「?…おい、ちょっと待て。なんで今電話しようとしてんだ。電源は切れた筈じゃ…」
「ん?ああ、あれは嘘だ」

ほらと見せてきた画面には、しっかり満たされた電池マーク映っていた。それを俺が確認したのを見ると、耳にあてて誰かと話し始めた。

(嘘、だと…?)

携帯の電源が切れていたのは、嘘だっただと?
一時治まっていた怒りが、腹の底でマグマのように沸々とたぎりだした。こいつがそんな嘘を吐かなければ、あんな馬鹿みたいに慌てることなかったんだ。こいつがそんな嘘を吐かなければ、俺はわざわざあんなチビを肩車せずに済んだんだ。

話し終えたらしい鬼道は、一応申し訳ないと思っているのか、眉を寄せてすまないと一言だけ言った。

「ってめぇそれだけで許すと思ってんのか…!」
「すまない。…ただ、二人だけでここを回りたかっただけなんだ」
「な…っ」

まさかの予想外すぎる答えに、俺は口をただぱくぱくとさせるしかなかった。

「え、え…お前…」
「おーい!鬼道、不動!」

馬鹿でかい声が俺達の名前を呼んだ。向こうから円堂達が、手を振って此方に向かってくる。その円堂の笑顔が、何故か久しぶりのように感じた。

「ああ円堂…!」

そっちの方に向かおうとする、鬼道の手を引いて、その逆の方に向かって走った。後ろからおい!と呼ぶ声が聞こえたけど、無視して突っ走ってやった。

「し、かたねぇから、ちょっとだけ一緒に回ってやるよ!」
「!…ありがとう」

掴んだ手に力を込めた。…さてこれから何処へ行こうか。
俺達の向かう先では、大きな観覧車がゆっくりと回っていた。







つばめさんへ『迷子の子供を助ける鬼不』素敵リクエストありがとうございました。
うわーつばめさん!どうも、犬養です。この度はリクエストありがとうございます^^おまけにリンクも結んでいただいて…嬉しい限りです!
こんな駄サイトですが、これからも仲良くして頂けると、凄く嬉しいです…!

(つばめ様のみフリー)

thanks:彗星03号は落下した


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