本当にタイミングが悪いと誰にともなく苛々しながら、俺は屋上に続く階段をかけ上がった。その先にある扉を壊す勢いで開けて辺りを見渡すと、倉間は壁の隅に踞っていた。その倉間の隣にしゃがんで名前を呼び掛けるが、つんと顔を逸らしてこっちを見てくれない。さて困った。こいつ完全に誤解してやがる… 剩Gれた瞳に惑わされてコイツがこうなったのは、ついさっきのことだった。放課後に教室で話があると女に呼ばれた俺は、早く済ませるという条件で残ってやった。(早く迎えに行ってやらないと倉間のやつ拗ねるから)しかし女は一向に喋ろうとしないから、もう俺は鞄を持って帰ろうとしたら突然胸ぐらを掴まれ、キスを仕掛けられた。あまりに突然だったからびっくりしてフリーズしていたところを、丁度タイミング悪く倉間に見られてしまったのだ。その後何も言わずに走り去った倉間を探しに、学校中を走り回ってやっと見付けて今に至るわけだ。やはり勘違いされているみたいで、いくら誤解だと言っても何も言ってくれないし目すらも合わせてくれない。 「なあ倉間…」 「……」 「おい聞けって…」 「もういいですから」 倉間の口から絞り出された小さな声は震えていた。いや、声だけだけじゃない。肩も小刻みに震えていて、時々鼻を啜るような音も聞こえてくる。俺は倉間の肩を掴んで無理矢理顔を此方に向けた。 「…ッ」 倉間は泣いていた。二つの大きな目は充血して赤くなっていて、なおもそこからは涙がじわじわと溢れてくる。その泣き顔を隠そうとする両の手首を掴んで壁に押さえ付けた。倉間はやめろと暴れて抵抗したけれど、力の差ではやっぱり此方のほうが強くてすぐに諦めた。 「…離せ」 「嫌だ」 「離して」 「無理」 キッと倉間は睨み付けてくるが、涙で潤んだ目では全く怖くなく誘っているようにしか見えない。真っ赤な顔、上目遣い、潤んだ目、小刻みに震える肩が全部俺の欲を掻き立てて、なんだかマズい気分になってきた。 しかし睨み付けてくる倉間の目からは以前と涙は溢れ続けていて止まる気配がない。そろそろ本気で俺の理性が危ない気がする。 「泣き止めよ」 「…るさい」 「誘ってるようにしか見えないんだけど」 「っなにす、やっ、んん…!」 小さく抵抗する倉間に覆い被さるようにして無理矢理唇に噛みついた。そのまま唇を割ろうと舌でつついたが、倉間は口を開けてくれなかった。 「は…、さいていだ。なに勝手に盛ってんすか」 「お前が泣くからだろ。可愛かったんだよ」 「っ…嬉しくねぇし」 「照れてる」 「照れてな…!」 生意気な唇を塞いで、今度は素直に開いた唇の隙間から舌を滑り込ませて絡ませた。押さえ付けていた手首を離して、学ランの釦をひとつひとつ開けていくと、首に腕を回されてさっきより密着する。それと同時にキスもさっきより深く濃厚なモノになった。 「ん…」 ぷちん、と最後の釦を外して唇を離すと、倉間はどこか物足りないような欲情した目で見てきた。別にそんな顔しなくても今からあげるのに…。 「べ…別に許したわけじゃないっすからね」 「はいはいお前だけが好きだよ」 「……ふん」 首に回された倉間の腕に少しだけ力が込められた気がした。 ×
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